[要旨]
かつて、オリンピックが開催された年は、旅行会社の顧客が、薄型テレビを販売する会社に奪われるという現象が起きました。これは、旅行と薄型テレビで、顧客のメンタルアカウンティング(心の財布)の奪い合いをしたということです。そこで、自社の提供する商品は、どこで戦っているのかということを把握し、適切な対策を講じることが重要です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、中小企業診断士の佐藤義典先生のご著書、「図解実戦マーケティング戦略」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、飲食店などの立地は重要ということについて述べましたが、では、立地(戦場)とはどういうことなのかについて、佐藤先生は、さらに詳しく説明しておられます。「ある旅行関係者の方から聞いた話ですが、アテネ五輪が開催された2004年の夏は、旅行商戦が苦戦したそうです。(中略)理由は、『オリンピックに(顧客を)取られた』とのことです。
まず、時間を奪われます。それから、薄型テレビを買ってオリンピックを観たお客さまもいました。(お客さまの心の財布の『ぜいたく費』という)予算が、旅行ではなく、薄型テレビに回ったのです。結果、旅行業界内での競争に加え、他業種(と、一般的には思われている)家電業界との競争が厳しかったとのことでした。BtoC(一般顧客対象のビジネス)の場合は、このようにメンタルアカウンティング(心の財布)が重要となります。BtoB(法人顧客対象)の場合は、費用品目がこれに該当します。例えば、広告代理店、印刷会社、PR会社などは、『広告費』というお財布を巡って競争するわけです。
このように、(お財布を巡る)『戦場』には、様々な定義の仕方があります。では、どのような戦場の定義が正しいのでしょうか?(中略)戦場はあなたが定義できますが、その正しさを認めるのは顧客であり、すなわち、戦場は『顧客の頭の中に存在する』のです。例えば、お客さまが、『今日のランチは時間もお金も節約したいから、吉野家かマクドナルドのどちらかにしよう』と考えた場合、お客さまの選択肢は「吉野家かマクドナルド」です。この、「お客さまの選択肢の束=戦場」となります」(32ページ)
前回は、立地=戦場として事例を紹介しましたが、今回の事例のように、戦場は立地だけとは限りません。例えば、「ランチを食べるときに利用する店」という視点から見れば、飲食店が少ない地域でも、コンビニエンスストアが多い地域では、競合相手がたくさんいるので、厳しい経営環境にあると考えることができます。したがって、ライバルは何かを考えるとき、同じ商品を提供している相手だけではなく、同じ「ベネフィット」を提供している相手は誰かという観点で定義する必要があります。
ただし、この「ベネフィットはなにか」=「顧客の選択肢の束(戦場)」は、「顧客の頭の中に存在する」ので、予見することは、現実的には難しいようですし、大きな会社でも、しばしば、「戦場」を見誤ることもあるようです。そこで、経営者の方は、顧客の動向を注意深く観察したり、仮説→実行→検証を何度も繰り返し、「顧客の頭の中」が分かるようにしていくという地道な活動が、より重要と言えるでしょう。
2023/1/26 No.2234