鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

成功の復讐

[要旨]

組織文化は、成功体験によって形成されるものの、経営環境が変化すると、かつての成功体験が経営環境への対応の妨げになることがあります。そこで、組織文化は、それを形成することを目的とするのではなく、競争優位を維持することを目的とする観点を持ち、適宜、経営環境へ適合するよう、改善を行わなければなりません。


[本文]

今回も、遠藤功さんのご著書、「『カルチャー』を経営のど真ん中に据える-『現場からの風土改革』で組織を再生させる処方箋 」を読んで、私が気づいたことについて説明します。前回は、組織風土とは、会社が危機的な状況に陥らず、安定した経営を行なうためには不可欠な、「心理的基礎」であるのに対し、組織文化とは、競争力を高めるための「心理的エンジン」であるため、経営者の方は、組織風土だけでなく、組織文化の涵養にも注力することで、事業の競争力を、より高めることができるようになるということを説明しました。

これに続いて、遠藤さんは、成功体験が組織文化の形成に大きく影響するものの、会社の成功体験は、それによって自滅することもあるということをご指摘しておられます。「(組織文化の研究の第一人者で、マサチューセッツ工科大学教授の)シャインが指摘するように、組織文化は、それぞれの組織の歴史における、『成功が残していったもの』である。つまり、どの組織文化も、その時点においては、極めて合理的なものと言うことができる。組織文化は、企業経営において、『目に見えない資産』である。

『強い組織文化』は、それ自体が競争優位たり得る。しかし、シャインが指摘する、『組織文化は成功が残していったもの』という指摘は、組織文化がない方する弱点にもつながる。『成功の復讐』という言葉がある。成功を収めた企業は、その成功要因によって自滅するという意味である。環境が変化しているにもかかわらず、過去の成功体験から脱却できずに、新たな環境に適合できずに衰退していく。これは、組織文化にも当てはまる。早稲田大学ラグビー蹴球部監督として、2年連続で全国大学選手権優勝を果たした、中竹竜二氏は、著書の中で、こう述べている。

『組織文化は、数年後、十年後の自分たちを助けてくれると信じて目を配り、違和感を覚えたら、こまめにメンテナンスし、時代や環境の変化に合わせて進化させていきましょう。組織がうまく回っている余力があるときに、メンテナンスをしていなければ、土壌は、年々、痩せていきます。5年後、10年後に、みすぼらしい果実しか実らなくなって、初めて、組織文化のメンテナンスを怠っていたと気づき、そこから変革をしても、回復するには何年もの歳月がかかります。それでは遅いのです』

安定した環境の中で、着実、かつ、堅実に仕事を進めていくことを得意にしていた会社が、劇的な環境変化についていけずに没落する事例は数知れない。(中略)組織文化は、強みでもあれば、弱みにもなる。自社の組織文化を、『競争優位』という観点で見ることが重要なのである」(108ページ)

この遠藤さんのご指摘は、端的に述べれば、「勝って兜の緒を締めよ」ということでしょう。でも、人は、どうしても慢心してしまう面があるので、「成功の復讐」に遭うことを完全に避けることができないのでしょう。ちなみに、私がこれまで中小企業の事業の改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、業績のよい会社ほど、常に改善すべき点を探究し、その改善に取り組むことに熱心な傾向にあると感じています。

逆に、「もっと改善活動に熱心に取り組むべきでは?」と思う会社、すなわち、業績があまりよくない会社ほど、改善活動にはあまり熱心ではありません。これらの経験から、私は、業績は改善活動に正比例するという仮説を持っています。もちろん、それはあくまでも仮説なので、まだ、客観的な証明はできない状態です。

話しを戻すと、遠藤さんは、「自社の組織文化を、『競争優位』という観点で見ることが重要なのである」とご指摘しておられます。すなわち、組織文化は強みにも弱みにもなるので、組織文化を形成することを目指すだけでは足りず、「競争優位」の観点から、常にメンテナンスを行い、「強み」となるようにしていかなければならないということです。繰り返しになりますが、成功したから自社は競争力があると考えてしまうと、「成功の復讐」に遭ってしまうので、「競争優位」の観点を忘れないようにすることが大切です。

2023/9/27 No.2478