鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

社長の役割は人を育てる人を育てること

[要旨]

松江市にある島根電工の社長の荒木恭司さんは、管理職は営業マンを育てる役割があり、さらに、社長は、営業マンを育てる管理職を育てる役割があると考えているそうです。これは、「上に立つ人間がすることは、自分がスーパーマンになることではなく、ヒットをたくさん打つ人間をつくること」と考えているからであり、実際に、こういった活動によって、同社の業績は向上しているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、島根電工の社長の荒木恭司さんのご著書、「『不思議な会社』に不思議なんてない」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、島根電工は、小口の顧客を対象とするビジネスモデルで成功しましたが、荒木さんは、他社が同じことをしようとしても、島根電工のようなよい組織風土がなければ、利益を出すことはできないと考えており、事業を成功させるためには、よい組織風土が必要になるということを説明しました。これに続いて、荒木さんは、経営者は「人を育てる人」を育てる役割があるということについて述べておられます。

「私は、社内で何度もナンバー1になったことがある、バリバリの営業畑の人間ですが、管理職になってからは、私が率先して仕事をとってくることはありません。誰かがスーパーマンである必要はないと思っているからです。スーパーマンのように、ものすごい営業マンがいても、その人が辞めてしまたら、会社は傾いてしまいます。上に立つ人間がすることは、自分がスーパーマンになることではなく、ヒットをたくさん打つ人間をつくることです。そして、社長である私の仕事は、『ヒットをたくさん打つ人間をつくる』監督をつくることです。そうすれば、仕事は向こうからどんどんやってきます。

たった130万人しかいない所得最下位エリアの島根県鳥取県で、155億の工事がやってくるのです。では、『ヒットをたくさん打つ人間』とはどんな社員でしょうか。それは決して、お客さまからお金をたくさんむしりとってくる社員ではありません。お客さまを感動させられる社員です。どうやったら、そんな社員をつくれるか。お客さまを感動させるためには、まず、社員を感動させなければいけません。社員自身が感動しなくて、感動させることはできないからです。

私は、社員全員に、リッツ・カールトンの本を読んでもらう『感動研修』を行っています。(中略)そして、休日を利用して、『感動研修』を行っています。午前中は、私が本の解説をします。午後は、社員たちが自身がどうすればお客さまを感動させることができるのかについて話し合います。(中略)全社員が同じ本を読んで、同じように感動すると、会社は格段に動かしやすくなります。同じ本を共通のベースにして、『感動』というテーマで取り組むので、課題が共有しやすいからです」(54ページ)

荒木さんは、管理職は部下を育て、経営者は管理職を育てる役割があると述べておられますが、これについては意見が分かれると思います。経営環境が厳しい中にあっては、幹部や経営者が契約をしなければならない場面があるのに、経営者や管理職が人材育成に注力することは、業績を下げる要因になると考える方もいると思います。私も、かつて、経営者や管理職も、営業活動が必要と考えていました。

でも、荒木さんが述べておられるように、「スーパーマンのように、ものすごい営業マンがいても、その人が辞めてしまたら、会社は傾いてしまう」、すなわち、営業活動が属人的になりすぎてしまうと、組織的な活動はできなくなってしまいます。現実には、顧客の中には、部長や社長と商談したいという要望を持つ人もいると思います。でも、そのような事情がない限り、私は、原則的に営業担当者に営業活動を任せ、幹部や経営者は、部下を育てることに軸足を置くことが望ましいと考えています。しかし、そうはいっても、幹部や経営者が営業活動を行う会社の方が多いのが現実ではないでしょうか。

その理由として考えられることは、1つは、経営者自身が、人材育成よりも、営業活動をしたい、自分が「スーパーマン」的な存在でありたいと考えているからだと思います。もうひとつは、部下の育成は必要と感じているし、実際に育成もするけれど、軸足は営業活動であり、その合間に部下育成をすればよいと考えているからだと思います。でも、荒木さんは、「管理職になってからは、私が率先して仕事をとってくることはありません」と述べておられるように、部下育成に軸足を置いています。

これは、事業活動は組織的活動であり、仕事が属人的になれば、組織的活動の意義が薄れると、荒木さんが考えているのだと思います。確かに、営業スキルの高い経営者が営業活動をすることで、大きな仕事を受注できると思います。でも、営業スキルの高い経営者が、その経営者のスキルの半分だけでも習得した部下を何人も育てる方が、効率的な営業活動ができると思います。そして、スーパー営業マンが数名いる会社よりも、スーパーとは言えなくても優秀な営業マンがたくさんいる会社の方が、業績は高くなることは間違いないのではないでしょうか。

2024/3/3 No.2636