鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

つらい仕事こそリーダーがやる

[要旨]

ソニーの元社長の平井一夫さんは、かつて、米国法人の再建を担ったとき、幹部のリストラの宣告を、自分自身で行うようにしたそうです。これはつらい仕事であったものの、そのような役回りからトップが逃げていると、部下たちの心が離れ、トップについてこなくなることになるので、平井さんは、敢えてそれを実践したそうです。


[本文]

ソニーの元社長の平井一夫さんのご著書、「ソニー再生変革を成し遂げた『異端のリーダーシップ』」を拝読しました。同書で、平井さんは、米国法人(ソニー・コンピュータ・エンタテインメント・アメリカ、SCEA)の事業再建を、実質的な経営者(エグゼクティブ・バイス・プレジデント(EVP)兼最高執行責任者(COO))として任されたときのご経験について述べておられます。「リーダーとして最もつらい仕事のひとつが、『卒業』の宣告である。ここでは。経営層のリストラになる。つまり、会社を辞めてもらうこと。

『あの人は、政治的なことばかりやっている』と社員から見られるような人を会社に残して、足の引っ張り合いを放置してしまえば、社員が安心してパフォーマンスを発揮できる環境には絶対にならない。それに、前述の通り、私はすでに追い込まれている。ここでバットを振らなければゲームセットだ。嫌な仕事だといって、ためらっている余裕などない。SCEAを去ってもらう人には、ハッキリと告げた。『君はこの会社とは縁がなくなる、辞めてもらう』(中略)非情な宣告である---。これは、人事部門などの人には任せず、必ず自分自身で行った。(中略)

これは、後々まで私が経営者として貫き通したポリシーだ。(中略)理由は大きく言ってふたつある。第一に、やはり会社に貢献していただいた人に対する敬意を示すためだ。そして、第二に、こんな気乗りしないつらい仕事を人任せにするようなリーダーに、人はついてこないと考えるからだ。例えば、人事部門の人がこんな仕事を振られたら、『平井さんは、良い時は表に出てくるくせに、嫌な仕事だけは我々にやらせるんですね』と思ってしまう。そう思われてしまったら、もう、人は動いてくれない」(84ページ)

この、平井さんの、「気乗りしないつらい仕事を人任せにするようなリーダーに人はついてこない」という考え方は、ほとんどの方が理解すると思います。このような例は少数だと思いますが、自分の周囲をイエスマンばかりにしてしまい、裸の王様になってしまう経営者もいます。しかし、そこまでは行かなくても、経営者が、自分が関心のある仕事しかせず、バランスに欠ける会社は少なくないと、私は感じています。

例えば、営業活動や生産活動などの、スポットライトの当たる活動には熱心に取り組むものの、労務管理や財務管理といった、裏方的な分野については関心が薄いという経営者の方は少なくないと、私は感じています。特に、財務管理について、経営者が実態を把握していなかったり、経営者自身が主体的に改善活動を行っていなかったりする会社に対しては、銀行は不安を感じることになります。私は、経営者が営業活動や生産活動に注力することに問題はないと思いますが、労務管理や財務管理など、事業を支える活動で、かつ、経営者でなければ担うことができない活動を疎かにするようなことは避けなければならないと考えています。

2023/6/23 No.2382