鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

肩書で仕事をするな

[要旨]

ソニーの元社長の平井一夫さんは、6年間の社長時代に、世界中を回り、70回のミーティングを開きましたが、その際に、自分が「雲の上の人」と思われないよう、社員たちと同じ目線で接するように努めていました。このように、肩書で仕事をしないようにすることで、経営者に対する信頼を高め、効率的な事業活動の実現を目指していました。


[本文]

今回も前回に引き続き、ソニーの元社長の平井一夫さんのご著書、「ソニー再生変革を成し遂げた『異端のリーダーシップ』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、平井さんがチームの育成を進めてきた結果、平井さんがCOOを務めていたSCEAは、平井さんが指示を出さなくても自走する、「オートパイロット」という理想的な状態になっていったということについて説明しました。平井さんは、SCEAの社長を務めた後、2012年に、ソニーの社長にを6年間、お務めになられました。その社長在任中に、平井さんは、世界中の拠点を回り、70回のタウンホールミーティングを開いて、社員たちに語り掛けをしてきたそうです。

「2人の創業者(盛田昭夫さんと井深大さん)や大賀(典雄)さんは、まぎれもないカリスマだ。だが、私はそうではない。(中略)ただ、社員たちにはそう見えないのかもしれない。ソニーの社長というだけで『雲の上の人』という目で見られているのかもしれない。(中略)その意識を壊すなら、社長から働きかけなければならない。私は、そんな思い出世界中を回って、社員たちと話し合ってきた。私は、よく、『肩書で仕事をするな』と言うが、社長という肩書を盾に取れば、社員たちの口から本音なんて出てこない。(中略)社員たちの『票』を勝ち取り、『この人の話なら聞いてやろうか』と思ってもらうためには、小さなことを積み重ねていくほかない。

中国の工場に行ったときのことだ。私は、工場でもオフィスでも、社員たちと同じ食堂でランチを取ることにしているのだが、社員食堂に行くと、ある一角がテープで仕切られて、『VIP』と書かれていた。(中略)しかも、食事は特注のケータリングが用意されていたので、がっくりである。これは、他の工場でのこと。私は、普段、みんなが何を食べているのかも知りたいので、社員と一緒に列に並んで同じものを食べる。席について食べると、ものすごくおおいしい。

『いやぁ、ここの食事はおいしいねぇ!』と、近くに座っていた社員にそう話しかけると、『ありがとうございます、今日は平井さんが来るから、特別なんですよ』と言うではないか。あぁ、これじゃダメだ…そんな特別扱いをされたら、私まで、『雲の上の人』になってしまう。みんなと同じ目線に立って話しているなんて思ってもらえない。この時はもう仕方ないので、現地のスタッフには、二度とそういうことはしないでほしいとお願いした」(172ページ)

平井さんが述べておられる通り、「肩書で仕事をしてはいけない」ということは、多くの方がご理解しておられると思います。しかし、「肩書」で指示を出すことは、ある意味で、上司としては楽です。組織では、職位が上の人が命令を出すと、職位が下の人はそれに従うという原則(命令一元化の原則)があるからです。しかし、その原則だけでは、命令を受けた側は受動的にしか活動できません。

さらに、「オートパイロット」は実現できず、効率的な事業活動はますます困難になります。だからこそ、平井さんは「肩書で仕事をしない」ことにこだわったのでしょう。このことは、繰り返しになりますが、多くの方たちが理解していながら、なかなか実践できないことだと思いますので、今回、記事にしました。

2023/6/26 No.2385