[要旨]
会社の従業員は、経営者層や管理者層よりも、多くの情報を持っています。情報を持つことは、その人の権力を高めることになるので、上層部に小出しにしか伝えられない傾向にあります。そのような状況では、経営者が誤った判断を行うことになってしまうので、経営者は、現場の情報を把握できるようにする取り組みに注力しなければなりません。
[本文]
今回も、前回に引き続き、山田修さんらのご著書、「プロフェッショナルリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。同書の執筆陣の1人である、経営コンサルタントの福田秀人さんは、社内のコミュニケーションの限界について述べておられます。「新入社員は別として、社長より社員、上司より部下の方が、担当している仕事についての知識と情報を、はるかに豊富に持っているはずです。(中略)そこに、社員や部下が、ばれないように不正を働く余地が生じるのです。
ここでの不正とは、犯罪だけでなく、手抜きなど、正しくないこと全般の意味です。(中略)例えば、社員は、自分の不手際で得意先を失った場合でも、『あそこの会社は無理難題ばかりふっかけるので、取引をお断りしました』と報告できます。以前、某製薬メーカーの社長が、『営業マンは社長をだまし放題だ、俺が営業マンだったからよくわかる』と、テレビ番組で言っているのを聞いたことがありますが、その通りでしょう。
しかも、社長や上司に、悪い情報だけでなくて、良い情報もろくに入らないのが、圧倒的多数の会社、部門の現実だと思います。(中略)そのため、トップは、現状を正しくつかめず、とんでもない判断ミスをしたり、いろいろな問題に気づかず放置して大きくしてしまい、気づいたときは、最早、手遅れというはめに陥るわけです。私が、商社で、情報処理システムの抜本的見直しや、現場回りに力を入れた最大の理由は、そういったリスクを少しでも減らすためでした」(150ページ)
最近、起きている大企業の不祥事には、現場の情報が経営者に伝わっていないことも要因になっていると思います。部外者から見れば、どうして会社の不正を社長が気づかないのかという疑問を感じると思いますが、福田さんの指摘しているように、良い情報も、悪い情報も、トップにはなかなか伝わりにくいというのが、現実と言えるでしょう。そして、それを解消しようと努力している会社もたくさんあると思いますが、それでも、経営者層に情報が100%伝わるようにすることは難しいと思います。
では、どうすればよいのかということですが、残念ながら、私は、その明確な回答は持っていません。福田さんの場合、情報システムの活用や、経営者が現場を回るという努力をしていたようですが、これも、一朝一夕には効果が現れないでしょう。だからといって、会社の情報、特に悪い情報を、経営者層が迅速に把握できる体制の構築に常に努めていなければ、福田さんのご指摘しているように、問題が発覚したときは、手遅れの状態になっているということが起きる確率が高くなってしまいます。経営者の方の多くは、会社の業績を高めることに注意が向きがちであり、それは大切なことですが、それと同時に、しっかりとした管理体制の構築も行わなければ、業績向上のための努力も無意味になりかねません。
2022/7/9 No.2033