鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

経営者は冷静さを失うとギャンブラーに

[要旨]

元Jリーガーの嵜本晋輔さんは、サッカー選手を辞め、父親の会社で働くことを決めたとき、サッカー選手に復活できるわずかな確率にかけるよりも、確実に自分が活躍できることを見つける方が妥当であると判断しました。ただ、人は窮地にあると、冷静な判断ができなくなり、「願望」で判断する「ギャンブラー」になってしまう傾向があるので、嵜本さんのように冷静に判断できるようにすることが大切です。


[本文]

サッカーJリーグのガンバ大阪の元選手で、東証グロース市場の上場会社であり、ブランド品等の買取・販売を行っている、バリュエンスホールディングスの社長を務める、嵜本晋輔さんのご著書、「戦力外Jリーガー経営で勝ちにいく-新たな未来を切り拓く『前向きな撤退』の力」を拝読しました。嵜本さんは、高校生時代に、ガンバ大阪のスカウトの目にとまり、同チームに所属することになりましたが、試合出場は入団した年だけであり、3年目のシーズンオフに戦力外通告を受けます。

その後、嵜本さんは、佐川急便の社会人サッカーチームに所属しましたが、社会人チームにおいても、自分のサッカー選手としての能力は通用しないと感じたことから、佐川急便を退職し、父親が経営する、家電品のリユース会社で働くことにしたそうです。そして、その時の嵜本さんの考えを、次のように説明しておられます。

「何よりいちばんよく知っているはずのサッカーで、人生を懸けてきた世界で、自分が復活する方法を見出せず、その道のりすら想像できない。想像できないことは、とてもではないけれど、実現することもできません。自分には、もう、Jリーグでプレーする可能性はほとんどない。可能性はゼロではないけれど、あってもせいぜいい5%。それが、冷静に自分を見極めたうえで出した、私の結論でした。

ここで、5%に賭ける人もいるのかもしれません。賭けたくなる気持ちを理解できないわけではありませんし、親しい人がそれに賭けることを選んだと聞けば、応援したいという気持ちにもなるでしょう。しかし、その判断の根拠となっているのは、自分の感情です。そして、その感情の底には、往々にして、『願望』が反映されています。経営で考えてみればどうでしょうか。成功の確率が5%しかなく、そこで得られるリターンも見込めない事業に経営資源を注ぎこみ続ける経営者はいないはずです。

もしも、それに挑むというなら、その人は経営者ではなく、冷静さを失ったギャンブラーです。いつしか、私は、こう考えるようになりました。すなわち、人生を100年とするならば、80年近く残されている私の人生という、かけがえのない『資源』を、5%しか可能性のないサッカーではなく、それ以外のところに投資した方がいいのではないか-。その考えは、いつしか、確信へと変わっていきました」(26ページ)

私も、事業改善のお手伝いをしてきた経験から、嵜本さんと同じようなことを感じていました。すなわち、ピンチに立つ経営者ほど、「願望」を判断の根拠にしてしまう傾向にあります。そして、もちろん、その多く、というよりも、ほとんどは失敗し、「ジ・エンド」になります。とはいえ、人間はどうしても感情で動く部分があるので、願望で判断してしまうこともあります。

だからこそ、経営者は、願望で判断することを避けるよう努めたり、願望で判断してしまう状況に至る前に、冷静でいられる状態のうちに、成功する確率の高い解決策に着手したりしなければなりません。「経営者」の肩書きを持つ人は、このような「普通の人」よりも難しい役割を担わなければならないということを、嵜本さんのご指摘を読んで、改めて感じました。

2023/6/27 No.2386