鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

組織の理想は『オートパイロット』

[要旨]

ソニーの元社長の平井一夫さんが、米国法人の再建に着手してから3年後に、同社のチームの体制が固まり、平井さんが指示を出さなくても自走する、「オートパイロット」の状態になっていました。これは組織として理想の状態ですが、このような状態になるために、部下から慕われるリーダーを育成したり、権限委譲を進めたりすることがポイントです。


[本文]

今回も前回に引き続き、ソニーの元社長の平井一夫さんのご著書、「ソニー再生変革を成し遂げた『異端のリーダーシップ』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、部下からリーダーとして認められていない人がリーダーになると、事業が円滑に進まなくなり、業績が悪化してしまうので、そのようなことにならないよう、リーダー(管理職)の人たちは、「もし部下による選挙が行われるとしたら、自分が当選する自信がありるか?」と、常に問いかけることが大切ということについて説明しました。

ところで、平井さんは、米国法人(ソニー・コンピュータ・エンタテインメント・アメリカ、SCEA)のエグゼクティブ・バイス・プレジデント兼最高執行責任者(COO)に就任し、同社の再建に取り組みましたが、3年後の1999年に、同社の社長兼COOに就任しました。そのころ、ゲーム機のプレイステーションが大ヒットし、SCE(SCEAの100%親会社)の業績は好調だったそうです。

「この頃になると、SCEAは、チームの体制が固まり、すっかり自走する組織になっていたことに、個人的に少し物足りなさを感じていた。チームとして結果を残しているので、私が指示を出す前に、『カズならこう考えるだろう』と皆が察して事前に動いてくれる。チームメンバーがちが、プロとしての動きをしてくれるので、任せてしまって問題はない。まさに、組織としては理想の形である。そういう組織を作らないといけないと考え、そのために色々な手を打ってきたつもりだ。

ただ、いざチームがうまく機能し始めると、リーダーとしてはちょっと物足りなくなってしまうのだ。ぜいたくな悩みと言ってしまえば、それまでなのだが…。私は、よく、こういう状態を、飛行機のコンピュータ制御飛行に例えて、『オートパイロット』状態という。この時のSCEAは、まさにオートパイロット。(中略)SCEAは、社長である私が少しくらい操縦桿を手放していても、正確に航路を進むオートパイロット状態に入っていたのだ」(106ページ)

平井さんの会社ように、経営する会社を、オートパイロットの状態にすることは理想的ですが、私は、会社をこのようにすることは、なかなか難しいことが現実だと思っています。でも、私は、平井さんの会社以外にも、たくさんとはいえませんが、オートパイロットの状態の会社を見たことはありますので、いま、改善の途上にある会社の経営者の方には、ぜひ、オートパイロットが実現できるように、引き続き、尽力して行っていただきたいと思います。

そして、そのための方法として、平井さんが示唆しておられるもののひとつが、部下の心をつかみ、難しい課題に臨む時であっても、ついて来てもらえるリーダーをたくさん育成することでしょう。そして、もうひとつ平井さんが示唆しておられることは、「物足りなさ」を我慢することだと思います。経営者、というよりも、ビジネスパーソンは、事業活動に身を置いていると、自分の「出番」を求めてしまいがちです。でも、マネジメント構造の上に行くほど、直接、現場に携わる機会を減らさなければなりません。そうしなければ、オートパイロットは実現しなくなるでしょう。

2023/6/25 No.2384