鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

鳴かずんばそれもまたよしほととぎす

[要旨]

松江市にある島根電工の社長の荒木恭司さんは、すべての従業員が優等生である必要はないと考えているそうです。それは、望ましい会社とは、いろんな人がいて、いろいろな仕事があって、それぞれが持ち味に合った仕事をして、バランスをとっていく会社であり、社長の仕事は、従業員の可能性を引き出して、会社にくるのが楽しくてたまらないという環境やしかけをつくることだと考えているからだそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、島根電工の社長の荒木恭司さんのご著書、「『不思議な会社』に不思議なんてない」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、荒木さんは、従業員と下請会社などの満足を実現することを通して、顧客満足を実現する、すなわち、「社員が1番、お客さまは3番」という考え方が、真に顧客満足を実現する方法と考え、これにより業績を高めているということについて説明しました。これに続いて、荒木さんは、従業員の適正配置が重要であると述べておられます。

「『社員が一番大切』、そう言うと、『それじゃ、使い物にならない社員が入ってきたらどうするんだ』ときかれることがあります。そんなとき、私はいつもほととぎすの俳句を例に出すようにしています。織田信長は、『鳴かぬなら 殺してしまえ ほととぎす』と詠みました。鳴かせてみせたのは豊臣秀吉、鳴くまで待ったのは徳川家康です。しかし、私はほととぎすが鳴かなくても、それでいいと思っています。人にはそれぞれ持ち味があります。中には、鳴かないほととぎすもいる。それもその人の人生です。いいではありませんか。

『鳴かずんば それもまたよし ほととぎす』と詠んだのは松下幸之助です。(中略)彼は“鳴かないほととぎす”も“鳴くほととぎす”も、ともに企業にとって必要だということをわかっていたのです。今、島根電工グループには550人の社員がいます。全員が全員、優等生であるわけはありません。一生懸命頑張っても、“鳴かないほととぎす”はいます。それでもいいのです。全員が管理職になって、全員が役員になって、全員が社長になれるわけではありません。

そんな風に、みんなが上をめざしたら、会社がぐちゃぐちゃになってしまうではありませんか。いろんな人がいて、いろいろな仕事があって、それぞれが持ち味に合った仕事をして、バランスをとっていく。それが活力ある組織のあり方です。(中略)そして、社長である私の仕事というのは、社員の可能性を引き出して、会社にくるのが楽しくてたまらない、そういう環境やしかけをつくることだと思っています」(128ページ)

会社経営者の方の多くは、自社の従業員は“鳴くほととぎす(優秀な従業員)”であって欲しいと考えていると思います。そして、もし、“鳴かないほととぎす(あまり優秀でない従業員)”がいた場合は、社内教育を受けたり、仕事の経験を積んだりして、“鳴くほととぎす”になって欲しいと考えていると思います。私も、基本的には、そう考えるべきであると思いますが、現実には、鳴くほととぎすはあまり多くないし、鳴かないほととぎすから鳴くほととぎすになる例もそれほど多くないのではないかと考えています。

そういった現実を踏まえ、荒木さんは、松下幸之助のように、鳴かないほととぎすも会社には必要だと考えているのだと思います。ここで、鳴かないほととぎすが、なぜ、会社に必要なのかというと、別の例で言えば、野球チームの全員が、4番打者のような強打者ばかりをそろえたら、よい成績をあげることができるかというと、必ずしもそうとは限らないということです。

出塁率が高い打者、出塁した打者を進塁させるための犠打の上手い打者、出塁したら速く本塁に戻って来ることができる足の速い打者など、それぞれの特徴をもった打者がバランスよくそろっているチームの方が、よい成績をあげるでしょう。すなわち、鳴くほととぎすは鳴くことで会社に貢献していますが、鳴かないほととぎすは鳴くこと以外で会社に貢献していると考えることが妥当だと思います。そして、経営者は、そういったバランスのよい組織をつくる役割を担っていると思います。

また、中小企業でありがちなのですが、鳴くほととぎすかどうかといのは、経営者の価値観に左右されやすいと思います。例えば、営業畑の経営者は、営業活動が得意な従業員を評価しますし、技術畑の経営者は技術に詳しい従業員を評価します。そういった価値観が強い人が経営者のいる会社は、組織全体のバランスが不安定であり、業績にもよくない影響を与えるでしょう。繰り返しになりますが、業績を高めるためには、鳴くほととぎすを増やすことではなく、鳴くほととぎすと鳴かないほととぎすのそれぞれの特性を活かすことができるための、バランスのよい組織をつくることが大切です。

2024/3/5 No.2638