鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

業務の棚卸で不要な仕事を洗い出す

[要旨]

ランクアップの岩崎裕美子さんは、ご自身が出産したことがきっかけで、定時に仕事を終わらせる会社にならなければ、自分以外の女性従業員も、出産するときは、会社を辞めざるをえなくなると考えました。そこで、業務の棚卸を行い、経営者である岩崎さん自身が積極的に関与し、不要な業務を洗い出し、全員が、定時までに仕事を終わらせられるよう、プロセス管理を行ったそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社ランクアップの社長の岩崎裕美子さんのご著書、「ほとんどの社員が17時に帰る売上10年連続右肩上がりの会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、顧客からハガキや電話で届く、製品の改善要望を、製品の改良に反映させるという活動は、従来は、労力がかかり、なるべく避けたい活動と考えられがちなものでしたが、これからは、顧客体験価値を高める活動であり、事業の競争力も高めることにもなるということを説明しました。

これに続いて、岩崎さんは、ご自身が出産を経験し、もし、定時で仕事を終わらせることができず、残業をしなければ仕事が終わらない状況が続くと、自分だけでなく、他の女性の従業員も、出産すると、会社を辞めなければならなくなると考え、残業をなくすための対策を考えるようになったそうです。「そうはいっても、仕事の量が多すぎて、定時で帰れない社員もたくさんいました。そんな社員からは、『残業させてほしい!』と、不満の声も出ました。そこで、仕事が多すぎる社員には、仕事の棚卸を実施しました。『なぜ帰れないのか?』を、一人ずつ確認したのです。

結果、出てきたのが、昔からの慣例で続けられていた仕事です。(中略)状況が変わったのにもかかwらず、無駄なデータを取り続けていたり、使っていない帳簿の更新など、業務を棚卸してみると、目的がわからずに続けている仕事がみつかります。それらを徹底的に洗い出し、作業を減らしました。今では、毎月、必ず、社員全員の残業時間のチェックをします。残業している社員には、その上司が、どうして残業しているのか、どんな仕事で残業になっているのかを確認します。(中略)場合によっては、優先順位の低い業務のスケジュールを遅らせたり、それでも残業が減らない場合は、その仕事自体を思い切ってやめてしまうこともあります」(72ページ)

業務の棚卸は、複雑なものではないので、どんな会社でも実践できる活動だと思います。しかし、これを実践しようとしても、現実的には、うまく行かない会社が多いと、私は感じています。なぜなら、業務の棚卸までは従業員が自力でできるとしても、不要と思われる業務を不要と判断することは、従業員だけでは難しいからです。その理由は、従業員の立場では、もし、不要と判断した仕事をやめて、後になって問題が起きた時、その責任をとることができるかどうかがわからないからです。

そこで、経営者や幹部従業員が、不要と思われる業務について、その人の責任と権限で判断すれば、棚卸の実効性が出てくると思います。しかし、多くの会社では、経営者や幹部従業員は、業務の棚卸のかけ声は行うものの、取捨選択までの関与が少ないと、失敗してしまいます。このようなことについては、経営者としては面倒に感じるかもしれませんが、直接的な活動は従業員に専念させ、業務プロセスの見直しといった、効率的な仕組みづくりは、当初は、経営者自身が積極的関与しなければ、よい結果を得ることは難しいと考えられます。

2023/8/11 No.2431