[要旨]
働き方改革関連法案などにより、これからは残業は厳しく制限されつつあります。したがって、評価すべき人材は、残業を前提に多くの利益を得る人より、単位当たりの利益獲得額の多い人を評価しなければなりません。したがって、経営者は、自社の目指すべき人材像を明確にし、それを社内に周知した上で、それに基づいて人事評価を行わなければなりません。
[本文]
人事コンサルタントの松本順市さんの、東洋経済オンラインへの寄稿を読みました。記事の概要は、残業をして、絶対額で多くの利益を得ている従業員よりも、残業をしなくても、効率的な活動により、単位時間あたりの利益額の多い従業員を、これからは会社は評価すべきであり、それを従業員に明確に伝えなければならないというものです。私も、当然、松本さんの考え方に賛成ですが、まず、その理由は、働き方改革関連法案などにより、法律で残業時間の上限が定められるなど、残業に対して厳しく制限される時代になってきていることです。
また、法律で規制されるだけでなく、そもそも、残業の多い会社は、職場環境が悪いと評価され、従業員の定着率が下がったり、求人に応募する人も減少したりするからです。そうであれば、人事評価についても、残業をする人ではなく、効率的な仕事をする人を評価することが妥当ということになります。では、現在、なかなか残業を減らすことができないでいる会社は、どのようなことをすればよいのかというと、これについて、松本さんは、次のように述べておられます。
「今取り組む必要があることは、生産性の高い社員がやっている仕事の仕方を全社員に明らかにすることです。これが評価制度の本来の役割なのです。生産性の高い社員は意欲的に仕事していることは間違いないでしょう。しかし、それ以上に生産性の高い社員が何をしているか、その仕事の内容が重要です。これを評価シートとして社員に可視化することです。可視化することで、社員は生産性の高い社員が実際にやっていることを知ることができます」
松本さんがご指摘しておられることは、恐らく、「職業能力評価基準」を作成して活用するということでしょう。ただ、きちんとした制度を導入することまでしなくても、経営者がどのような人材を望んでいるのかということを明確にすることは欠かせないでしょう。しかし、中小企業の多くは、成行的な事業活動を行っており、本来の、経営理念を明らかにして、それを実現するための人材戦略を策定するということをせずに、単に、「優秀」な人材が望ましいとしか、経営者の方が考えていないのではないかと思います。
しかも、松本さんもご指摘しておられますが、「優秀」な人材とは、残業することを厭わない人という、20世紀の考え方を引きずっている人が、部下を評価する立場にいれば、残業する人は、ますます減らなくなるでしょう。したがって、残業を減らすためには、経営理念と人材戦略を明確にすること、そして、それを反映させた評価制度を作成することから着手しなければならないということになるでしょう。もちろん、これだけで、働き方に関する課題のすべてが解決するわけではありませんが、少なくとも、ここから着手しなければ、労働人口が減少する時代に対応する会社になることができなくなると、私は考えています。
2023/8/8 No.2428