鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

目先の売上よりも差別化した製品開発

[要旨]

化粧品販売会社を起業した岩崎裕美子さんが、かつて、所属していた広告代理店では、差別化した商品がなかったことから、価格競争に巻き込まれ、長時間労働をせざるを得ない状況が続いていました。そこで、起業した会社では、差別化した製品を開発し、安定的な利益を得ることができるようにしたことによって、定時退社を実現できるようになりました。


[本文]

マナラ化粧品を販売している、株式会社ランクアップの社長の岩崎裕美子さんのご著書、「ほとんどの社員が17時に帰る売上10年連続右肩上がりの会社」を拝読しました。岩崎さんは、旅行会社、広告代理店勤務を経て、2005年に化粧品販売会社のランクアップを起業します。同社の起業のきっかけは、それまで岩崎さんが働いていた会社が、終電まで働くことが当たり前だったことに疑問を感じたからでした。

しかし、単に、残業をしないと決めただけでは、事業を継続できるとは限りません。そこで、ランクアップを起業したときに、岩田さんは差別化した製品を開発し、販売することにしたそうです。「企業は常に安定した利益を得なければ、利益を出すために夜遅くまで働かないといけないのですが、圧倒的に差別化した製品を開発し続けると、ヒット製品が生まれやすく、安定的に利益を出すことができます。

差別化した製品開発は、効率の良い販売を可能にするのです。ちなみに、以前の広告代理店がどうして長時間労働だったのか?それは、他社との差別化したオリジナル媒体がほとんどなかったからです。(中略)そこで、営業である私たちは、さらに売上を伸ばすために、自社媒体だけでなく、どこの会社でも販売することができる雑誌や新聞、フリーペーパーなどの広告にも手を出し、売上を上げていました。(中略)

結局は、目先の売上のために、毎日、新規開拓営業を続けてしまっていたのです。新規開拓営業は効率が悪いのですが、がんばって続けると、ある一定の割合で受注がとれます。ですから、長時間労働していると、必ず売上が上がります。でも、会社としての将来ビジョンや戦略が具体的につくられていなかったので、社員がせっかく身を粉にして広告を販売し、売上を拡大したとしても、その苦労が将来に積み上がるという達成感がまるでなかったのです。(中略)

これは今だから言えることですが、当時のこの会社で私が実際にしなくてはならなかったことは、目先の売上を稼ぐことではなく、差別化したオリジナル媒体をどんどん開発することだったのです。自社の強みである差別化した媒体を開発することは、会社の将来の柱をつくることになります。(中略)それなのに、媒体開発は難しいと諦め、とりあえず、すぐにつくれる目先の売上のために、長時間、社員を働かせていた私は、なんて馬鹿だったのか。だからこそ、今、私たちの会社で取り組んでいる、差別化した製品開発がどれだけ大切で、会社の根幹であるかがわかるのです」(50ページ)

ここで、「差別化した製品を開発できるのであれば苦労しない」と考える方も多いと思います。確かに、差別化した製品を開発することは容易ではありません。しかし、現在は、品質が高くて価格が安い製品は当然という時代です。だからこそ、差別化した製品を販売できなければ、価格競争に陥り、それは長時間労働につながり、消耗戦に陥ってしまうのでしょう。でも、繰り返しになりますが、差別化した製品を開発することは難しいわけですから、私は、現在は、起業そのものが難しくなっていると考えています。

もちろん、会社を登記して、事業計画を作成して、銀行から創業者向け融資を受けるということは、それほど難易度は高くありません。ただ、事業を安定的に継続することは、難しくなっているということです。そして、このことは、容易に理解できることなのですが、岩崎さん自身も、かつては、「最も嫌いな言葉はワークライフバランス」、「若い時に死ぬほど働かないと成長しない」、「会社は給料をもらいながら勉強できる場所」とまで考えていたそうです。

しかし、その岩崎さんも、「とりあえず、すぐにつくれる目先の売上のために、長時間、社員を働かせていた私は、なんて馬鹿だったのか」と悔いているわけです。したがって、これから起業しようとする方、新しい事業を始めようとしている経営者の方は、この差別化した製品がなければ、起業することはできても安定的な事業運営は難しいということを理解した上で、起業しなければならないと思います。少なくとも、自社の事業の強みを深く検討することなく、起業そのものをゴールにするような起業は、避けなければならないでしょう。

2023/8/9 No.2429