鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

決算パーティで部下の歓心は得られない

[要旨]

岩崎裕美子さんが起業した会社では、かつては、従業員の方に報いようとして、豪華なパーティに従業員の方を招待したり、福利厚生制度を充実させたりしました。しかし、それは、岩崎さんが従業員の方たちから評価されたくてしていたことを見抜かれていたため、従業員の方たちの不満はなくなりませんでした。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社ランクアップの社長の岩崎裕美子さんのご著書、「ほとんどの社員が17時に帰る売上10年連続右肩上がりの会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩崎さんの会社は、かつては、岩崎さんに聞かなければ、何も判断できない状態でしたが、その理由は、会社の価値観が明確になっていなかったためだったので、岩崎さんは、すべての従業員に賛同されなくても構わないという前提で、「挑戦」を会社の価値観とすると社内に公表したということについて説明しました。

これに続いて、岩崎さんは、それまで価値観を伝えていなかった理由は、従業員の方たちから自分がいい人と思われたかったからだと述べておられます。「今までの私たちは、社員の前で、かっこつけていて、自分たちが本当に求める価値感を伝えていなかったのです。社員からいい人と思われたい、いい社長と思われたいと考えて行ったことは、これまでたくさんありました。

一番すごかったのは、伝説の決算パーティーです。業績がよかった年に行ったパーティーは、なんと、六本木のリッツカールトンホテルで、3万円のフルコースディナー、お土産は、なんと2万円の食事券と5万円のエステ券という豪華さ。しかも、社員から、『せっかくドレスアップしてるから、髪もセットしたい!』という意見があったので、知り合いのヘアメイクさんを3名も呼んで、女性社員の髪を全員分セットしてもらうほど気合をいれました。(中略)

今、当時のことを社員に聞くと、『岩崎さんは、私たち社員に残業もないし、福利厚生も充実しているし、いい会社ですと言わせたかったんですよね』と、言われます。本当に、その通りです。私は社員に、『いい会社』と言って欲しくて制度を充実させたのに、社員は暗く、やる気がない…それで、私も日高も、『なせこんないい会社なのに、どうして社員は文句ばかり言うの?』と、ずっと思っていたのです」(139ページ)

岩崎さんは、ご自身が起業した会社で、残業をなくしたり、福利厚生精度を充実させたりしてきており、ある面で、それはすばらしいことだと思います。なぜなら、それを実際に実践できる会社はあまり多くないからです。しかし、それでも従業員の方には、そのことを評価されませんでした。それは、岩崎さんご自身も認めておられるように、職場環境の改善は、本当は、岩崎さんが従業員から評価されたいという「下心」があったことを、従業員の方に見抜かれていたからです。

とはいえ、私自身もそうですし、会社経営者の方の多くは、「従業員や社会から評価を受けたい」と考えていると思います。もちろん、自分が評価されたいと思うことは、経営者として成果を高めるための大きなモチベーションになるので、それが、直ちに問題になるわけではありません。ただ、中には、表面的には、「従業員のため、社会のため、会社のために自分は頑張っている」というふりをしながら、実際には、自分が評価されることを最優先し、岩崎さんのように空回りしてしまう例は少なくないと、私は感じています。

繰り返しになりますが、人は、特に注意していないと、自己中心的になってしまいます。しかし、経営者のような立場の人は、その傾向が強いと、事業がうまくいかなくなる可能性が高くなります。岩崎さんの「伝説の決算パーティー」はその典型的な事例ですが、そのようなことをしないよう、私自身もこれを他山の石にしなければならないと、改めて感じました。

2023/8/17 No.2437