鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

社内コミュニケーションは常に不足気味

[要旨]

岩崎裕美子さんが起業した会社は、残業もノルマもなく、売上も増加して行ったのですが、会社の雰囲気も暗く、体調不良で休職する人まで現れました。そこで、管理職の方に会社の問題点を挙げてもらったところ、経営者との会話が少なく、経営者の意思が従業員によく伝わっていないということを指摘されました。したがって、経営者の方は、多くの時間を従業員たちとのコミュニケーションに費やすことが大切と言えます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社ランクアップの社長の岩崎裕美子さんのご著書、「ほとんどの社員が17時に帰る売上10年連続右肩上がりの会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩崎さんは、会社が成長するためには、従業員にも成長してもらう必要があると考え、正社員には定年までスキルアップできる人事評価制度をつくり、それを導入したということについて説明しました。

その後、岩崎さんの会社では、残業がなくなる一方で、売上も増加していたのですが、社内の雰囲気は暗いままだったそうです。さらに、体調不良になる従業員の方が現れたり、休職する人も増加したりしたそうです。岩崎さんとしては、過去に、ご自身が、過酷な環境で働いていた経験を、部下たちにはさせないよう、残業が少なく、ノルマもない条件で働いてもらっているのに、このような状態になることが不思議だったそうです。そこで、ある人事コンサルタントの方と相談し、まず、岩崎さんたち経営者の方の考え方を、管理職の人たちに理解してもらうために、両者で3年間の中期計画をつくるプロジェクトを立ち上げたそうです。

「初めてのことに、役職者も最初はこれから何が始まるのか不安そうでしたが、経営計画に初めて参加することが楽しかったようで、毎週、プロジェクトを行うたびに、役職者が笑顔が増えるようになり、楽しく進んでいきました。会社を始めて6年目にして、やっと、私たちは役所くっはと一緒に会社の数字の話や問題点、そして、将来の見直しの話をしたのです。

(そして、そのプロジェクトの中で)会社の弱みや問題点として、役職者から、次のようなことが挙げられました。(1)経営者と話す機会が少ない、(2)経営者の意思が社員に伝わっていない、(3)人材育成のカリキュラムがない、(4)将来的な規模が見えない、(5)戦略が社員に伝わらない、(6)目標設定の背景の説明がない、(7)短期的な見方で、いつも戦略を決定する、(8)長期戦略が弱い

挙げられた問題点は、これ以外にもまだまだたくさんありますが、今までずっと一緒に仕事をしてきた役職者からこんな本音を聞いたのは初めてのことです。初めて聞く内容に驚きましたが、私が思ったことは、『みんなよくわかってるな!』ということでした。きっと、今まで言いたくても言える雰囲気ではなかったから言えなかったんだと思いました。もちろん、経営者としては、耳が痛かったけれど、勇気をもって話してくれた役職者に感謝しなくてはなりません」(113ページ)

管理者の方から挙げられた、岩崎さんの会社の問題点ですが、これらは、岩崎さんの会社だけでなく、他の多くの会社にあてはまると感じています。その一方で、岩崎さんは、これらの問題点を受け入れておられますが、私も、これまで、中小企業の事業改善のお手伝いをする中で感じることは、経営者の方も、決して独善的ではないにもかかわらず、従業員の方は、必ずしもそう考えていないということです。例えば、岩崎さんの会社では、人事評価制度を導入しているにもかかわらず、「人材育成のカリキュラムがない」という問題点を指摘されています。

確かに、人事評価制度だけでは、完全な人材育成カリキュラムとは言えませんが、少なくとも、岩崎さんは、従業員の方たちに、どのようにスキルアップして欲しいかを示しており、人材育成カリキュラムがないという指摘は、厳しすぎると思います。ただ、問題なのは、経営者の方が伝えているつもりでも、従業員の方たちは伝えられていないと感じてしまうことが起きるということです。もちろん、経営者の方が朝令暮改のようなことをしてしまうことがあるので、経営者の方に問題があることもあります。

そこで、「一を聞いて十を知る」ということわざがありますが、経営者の方としては、それとは逆に、「十を話すことで一を知ってもらう」くらいの気持ちで、従業員の方たちとのコミュニケーション量を確保しないと、岩崎さんが指摘されたような問題点を従業員の方は感じてしまうのだと思います。これについては、経営者の方としては理不尽さを感じると思いますが、岩崎さんの会社の例からもわかる通り、会社の中では、コミュニケーションにどれだけ時間をかけても足りないと思うくらいでなければ、従業員の方には経営者の方の意図は伝わらないのだと思います。

2023/8/14 No.2434