[要旨]
岩崎裕美子さんが起業した化粧品会社では、従業員の方たちにノルマを与えていなかったのですが、逆に、そのことが、従業員の方たちが、「自分たちは会社から認められていない」と感じる原因になりました。岩崎さんは、働きやすくするためにノルマを与えなかったのですが、それは改善しなければならないということに気づいたそうです。
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今回も、前回に引き続き、株式会社ランクアップの社長の岩崎裕美子さんのご著書、「ほとんどの社員が17時に帰る売上10年連続右肩上がりの会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩崎さんの会社は残業をなくし、業績が上向いてきたにもかかわらず、従業員が身体を壊したり休職したりするようになったため、その原因を調べたところ、管理職の方たちから、経営者との会話が少なく、経営者の意思が従業員によく伝わっていないということを指摘されたということを説明しました。
この後、経営者と管理者の間での理解は進んだのですが、従業員との間では、まだ理解が深まっていなかったことから、岩崎さんは、従業員の方に研修を受けてもらうことにしたそうです。「この研修は、2泊3日の研修の最終日に、『会社のために自分たちは何ができるのか?』というテーマでグループごとに話し合いが行われます。しかし、なんと、このテーマに対して、社員の誰ひとりとして、会社のために何ができるのか考えることが、できなかったのです。
『会社に貢献できることなんてないです』という社員たちに、よくよく講師が話を聞いて出てきたのは、『会社は私たちをまったく認めてくれていない、そんな会社のために、何ができるかなんて考えられな』という言葉だそうです。講師はびっくりして、『言いたいことがあったら、いい機会だから全部いいましょう』と促したそうです。すると、たまりにたまっていた不満が一気に大爆発したのです。『仕事をしても満たされない(中略)、会社から認められていないから貢献なんてできない』思いのたけを吐き出して、泣き出してしまう社員もいたそうです。
私はその場にはいませんでしたが、講師がその場から私に電話をくれて、『岩崎さん、今からこの研修所に来て、社員に謝ってください』と言われました。私は、その電話を受けて、びっくりして、すぐに駆けつけ、社員に謝りました。この研修のお陰で、私は、社員みんなが暗かった理由をしることができました。それは、私が、社員をまるで認めていなかったからだったのです。私は、それまで、ある程度のお給料と休息ができる休みがあれば、それが働きやすい環境なんだと思っていました。(中略)
私は、売上に追われることがなければ、社員たちは、そのプレッシャーから解放されて、気楽に仕事ができるはずと思っていたのです。でも、社員たちは、数字からの気楽さと引き換えに、達成感を失っていたのです。(中略)業績は、年々上がっているけれど、社員一人ひとりがどう貢献しているのか、本人たちにとってもわからない状況になっていたのです」(118ページ)
多くのビジネスパーソンは、日々、目標達成のための活動に追われ、忙しい思いをしていると思います。でも、岩崎さんの会社では、残業もなく、ノルマもないことから、ある意味、日々、忙しい思いをしているビジネスパーソンから見れば、とてもうらやましい環境で働いていると感じると思います。そして、岩崎さんも、部下たちのことを考え、それを実現していました。でも、岩崎さんの会社では、前述の通り、それが仇になってししまいました。
このことは、経営理論の、「X理論-Y理論」で説明できます。まず、X理論とは、人間は本来は働きたくない習性をもっているので、命令で厳しく管理をしなければならないという考え方です。一方、Y理論とは、人間は本来は進んで働こうとするので、自主性を尊重して管理する方がよいという考え方です。岩崎さんは、かつて、ノルマを達成することがに苦しめられてきた経験があり、すなわち、X理論のもとで働いてきたことから、ノルマがなくなれば従業員たちには喜んでもらえると考えていたのでしょう。
でも、現在は、かつてのような定型的な仕事は減少し、多くの会社は従業員の方に創造的な仕事をしてもらっているわけですから、Y理論で考えなければならなかったのです。これを岩崎さんは見逃していたわけです。とはいえ、私も岩崎さんの気持ちは理解できるので、従業員の方たちをまとめていくリーダーの仕事というのは、簡単なようで本当に難しいと、改めて感じました。
2023/8/15 No.2435