鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

人材が流出する会社は成長しない

[要旨]

岩崎裕美子さんは、かつては、出産した女性には長時間労働をしてもらうことができなくなるので、退職して欲しいと考えていました。しかし、岩崎さん自身が出産を経験して、残業のない職場であれば、出産した女性でも働いてもらうことができ、また、退職してもらう必要もなくなると、考え方を変えました。さらに、長期間、働いてもらうことで、スキルも高くなります。したがって、離職率の低い会社を目指すことが会社も成長させることができると考えているそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社ランクアップの社長の岩崎裕美子さんのご著書、「ほとんどの社員が17時に帰る売上10年連続右肩上がりの会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩崎さんが、他の会社の経営者の方に、会社の一体感を出すためにどうすればよいかと相談したところ、新卒採用を行うことを薦められたので、社内の反対を押し切って新卒採用をしてみたところ、会社の価値観を直ちに受け入れてもらえるほか、異なるキャリアを持つ先輩たちを中和する効果もあったということを説明しました。

そして、最後に、岩崎さんは、女性の従業員に活躍してもらうためには、残業をなくすことが必須であるということを述べておられます。「今でこそ、こんな偉そうなことを言っていますが、昔の私は、まさに、女性社員を使い捨てにしていました。(中略)というのも、長時間労働ありきの会社では、30歳前後になると、女性社員は『結婚や出産をしたいから退職します』と言って辞めていきます。出産して、子育てしながら長時間働くなんて、絶対に無理だからです。

会社としても、残業できない社員は使いものになりませんから、女性社員はもちろん、出産したら退職してほしいですし、万が一、『復職したい』と言われたら面倒なのです。しかし、そんな私も、自分の出産をきっかけに、考えが方が180度変わりました。今では、女性社員41名の半数以上がママ社員、そして、なんと社員が育てている子どもの数は23人、育児と仕事の両立がしやすいように、残業をほとんどなくしました。それでも、業績は10年連続で上がり続けているのです。

以前、役員を務めていた広告代理店では、20人で寝ないで働いて20億円の売上でしたが、今はなんと43名の社員で、75億円売上ているのです。(中略)さらに、今では私たちの会社は誰も辞めません。今まで過去3年間に退職したのはたった1人だけ、以前の広告代理店では、過去3年間で離職率100%、人材が流出する会社では、継続的な成長は難しいことを実感しました。私たちの会社では、誰も辞めないので、社員の仕事のスキルがどんどん上がり、人が育つのです。だから、会社は継続的な成長がしやすくなります」(188ページ)

この、岩崎さんのご主張はもっともだと考える方がほとんどだと思います。その一方で、「残業をなくせるものなら、なくしたい」と考えている経営者の方も多いと思います。ただ、この課題については、かつて、岩崎さんも取り組みました。それは、付加価値率の高い商品を開発し、販売するということです。ところが、付加価値率の高い商品(≒競争力の高い商品)の開発も、容易ではないということも事実です。ところが、いまだに多くの経営者の方が、規制緩和が進んだこともあり、「起業すれば成功する」と思い込んで起業してしまい、そして、起業後に、商品の競争力の低さから、従業員に残業を強いて売上を伸ばそうとする例が多く見られるのだと思います。

繰り返しになりますが、付加化率の高い製品を開発することは容易ではないことも事実ですし、また、実際に起業してみないと結果が分からないこともあると思います。ただ、少なくとも闇雲に起業してしまうことはせず、時間をかけて起業の準備を行ってから起業することの方が、成功する確率は高まるでしょう。そして、それは、VUCAの時代だからこそ、その必要性は、年々、高まっていると言えるでしょう。

2023/8/20 No.2440