鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

アウトソーシングの活用で残業をなくす

[要旨]

岩崎裕美子さんが起業したランクアップでは、起業前から、商品の発送業務など、定型的な業務はアウトソースすることを決めていました。その結果、同社従業員は、同社でしかできない、「考える仕事」に集中することができるようになり、効率的な活動を実現できるようになりました。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社ランクアップの社長の岩崎裕美子さんのご著書、「ほとんどの社員が17時に帰る売上10年連続右肩上がりの会社」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、岩崎さんが出産をきっかけに、定時に仕事が終わるようにならなければ、日高さん以外の女性の従業員の方も、出産することになったときは、会社を辞めなければならなくなると考え、定時に仕事が終わるようにするために、自社の業務の棚卸を行い、岩崎さん自身がそれに積極的に関与し、不要な業務を洗い出し、全員が、定時までに仕事を終わらせられるよう、プロセス管理を行ったということについて説明しました。

これに続いて、日高さんは、自社が残業をなくすことができるようになった要因として、アウトソーシングの活用をあげておられます。というのも、日高さんは、ランクアップを起業する前に、2か月間、ある化粧品会社でアルバイトをしたとき、1日に20件程度の受注しかなかったにもかかわらず、発送する商品数を間違えたり、発送先を間違えたりするなど、発送業務を正確に行うことは意外と難しいということに気づいたそうです。このような経験から、岩崎さんが起業したときは、自社製品の発送はアウトソーシングを活用する方がよいというように考えるようになったそうです。「アウトソーシングというと、みなさん、コストが増えるというのですが(中略)、一概に、コストが増えるわけではないのです。

また、アルバイトを採用した場合は、月間の人件費がかかります。最初は、毎日、注文があるわけではありませんから、注文がない日は、アルバイトの仕事がありません。でも、アウトソーシングなら1件いくらで発送してくれるので、無駄がありません。(中略)配送業務の次は、電話受注をコールセンターに委託するようになりました。当初(中略)、お客様からの注文は、直接、私たちが受けていました。しかし、だんだん、注文が増えてきて、私の仕事が、1日中、お客様からの注文を受けることしかできなくなってしまったことをきっかけに、コールセンターにお任せしました。

こうして、増え続ける仕事を、うまくアウトソーシングしながら、少数精鋭で効率よく経営をしているのです。最近、私たちの会社は、『ほぼ、残業しないで、10年連続で売上を上げている』ということで、よく、取材を受けます。その度に、『どうして残業をしないで売上を上げられるんですか?』と聞かれ、私は、アウトソーシングを活用していることを話します。ただ、何度も取材を受けてお話ししているうちに、私たちは、たくさんの作業や業務をアウトソーシングすることで、自分たちにしかできない仕事、つまり、考える仕事に集中することができていたということに気がついたんです」(78ページ)

業務の効率化は、内製化することでも実現できる場合があるので、必ずしも、アウトソーシングをしなければならないというわけではないのですが、岩崎さんの経営する会社のように、製品の付加価値率が高い事業の場合は、アウトソーシングの活用が適していると思います。ただ、私が、これまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、アウトソーシングの活用は避けようとする経営者の方が多いということです。それは、岩崎さんもご指摘しておられますが、アウトソースすることはコストが増えると考えてしまいがちだからだと思います。

確かに、アウトソースすれば、「外注費」という費用が計上され、費用の増加が明確になります。では、アウトソースせずに、その対象業務を自社の従業員が行った場合はどうなるでしょうか?当然、業務量が増えるわけですから、従業員数の増加か勤務時間の増加、あるいはその両方によって、人件費は増加することになるでしょう。しかし、人件費は、原価計算などによって管理されていなければ、その対象業務による増加分が明確にされません。したがって、アウトソースと内製化の違いのひとつは、費用が明確にされやすいかどうかということだと思います。

さらに、アウトソースする場合は、その費用が明確になるので、経営者としては、心理的に避けようとしたくなるのだと思います。とはいえ、アウトソースする方が、費用面で効率が高いということもあるので、アウトソースすることが100%正しいとは限りません。だからといって、内製化する方が、費用面で正解かというと、管理されていないこともあるので、その場合は正確な効率はわからないとしても、外注する方が効率がよいということもあります。特に、岩崎さんの会社のように、付加価値率が高い事業は、アウトソースの活用が向いていると考えられます。

これは、岩崎さんが、「たくさんの作業や業務をアウトソーシングすることで、自分たちにしかできない仕事、つまり、考える仕事に集中することができていた」と述べておられることからも分かるとおり、定型業務をアウトソースすることで、自社は、自社にしかできないことに集中することが効率的であることは間違いないでしょう。繰り返しになりますが、アウトソースすることは、費用が明確になるために、避けられがちですが、それは、アウトソースするかどうかの判断要因とすることは妥当ではありません。

2023/8/12 No.2432