鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『伝える』ことと『伝わる』ことは違う

[要旨]

相手に指示を出しても、相手が動かなかったら、それは「伝えた」だけで、「伝わっていない」ことと同じことです。きちんと相手が理解できる形で、こちらの意図を伝えて、行動を促して、実行しているかを確認して、きちんとフォローして、その案件が完了しなければ、経営者の方は、役割を果たしたとはいえません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、ミッションを会社内に浸透させるためには、経営者が何度も繰り返してミッションを伝えることが大切ですが、それと同時に、ミッションを体現している部下を評価することも大切ということを説明しました。

これに続いて、岩田さんは、会社内でのコミュニケーションの大切さについて述べておられます。「コミュニケーションにおいて、心しておかないといけないことは、『伝える』ことと、『伝わる』ことは同じではない、ということです。相手に『伝わる』ようにするためには、何度でも同じことを繰り返さないといけません。さまざまな角度の伝え方を工夫して、相手の心に響くように言い続けていくのです。メッセージを繰り返し発し続けることによって、本当に重要なことが伝わっていきます。しかし、それでも本当に伝わっているとは限りません。

例えば、指示を出すにせよ、メッセージを送るにせよ、ただ『伝える』だけでは意味がありません。相手の心に響かせ、何らかの影響を与え、相手の行動を変えて初めて、伝わったことになるのです。相手に指示を出しても、相手が動かなかったら、それは『伝えた』だけで、『伝わっていない』ことと同じことです。『伝える』だけでは意味がありません。では、相手に伝わったかどうかを確かめたいときには、どうしたらいいのか?軍隊のように、『自分の言葉で復唱』してもらうのが一番良いと思います。さらに軍隊で作戦を立案した参謀は、戦場まで出かけて、作戦がきちんと実行されているか、必ず見に行きます。こういったことは、実際の企業活動でもとても大切です。

だいたい、コミュニケーションのミスで、多くの無駄な時間を費やしたり、不具合が生じるものです。『伝えた』のに『伝わっていない』のは、相手の問題ではなく、こちらの問題です。いかにしてうまくメッセージを伝えるかは、とても大きな問題です。かつ、フォローをすることが大切です。きちんと相手が理解できる形で、こちらの意図を伝えて、行動を促して、実行しているかを確認して、きちんとフォローして、その案件が完了して、初めて仕事が終わったと言えるのです。さらに、その結果にねぎらいの言葉をかけたり、褒めてあげることができたら完璧です」(228ページ)

岩田さんが述べておられる、「伝える」ことと、「伝わる」ことは同じではないということは、どんな人でもご理解されると思います。ところが、「伝わる」ための努力をせず、「伝える」ことだけしかしないビジネスパーソンは意外と多いと、私は感じています。さらに、経営者や管理職の人ほど、部下に対して、「1を言うだけで、10を理解して欲しい」と考えている傾向が強いと思います。特に、オーナー経営者は、昨日と今日で、言っていることが変わってしまう、朝令暮改のような人も少なくありません。そうなると、部下たちは、経営者が何を言いたいのかわかりません。

その結果、頭が混乱してしまうだけでなく、「さっきはああ言われたけど、すぐに変更になるかもしれないから、今は着手しないでおこう」と考えるようになるかもしれません。すなわち、当然のことなのですが、経営者や管理職が出す指示は、一貫性がなければ、あまり意味がないものとなってしまいかねないのです。しかし、経営者や管理職の方たちが、すぐに指示を変えてしまったり、「1を言って10を理解して欲しい」と考える気持ちは、理解できなくもありません。なぜなら、現在は、経営環境はめまぐるしく変わるので、経営者の方も、迅速に環境変化に対応したいと考えるからです。

ところが、岩田さんもご指摘しているように、経営者の方の考えていることを、どれだけ言葉にしても、それが「伝わって」いなければ、意味がありません。そこで、経営者の方は、自分自身で環境対応をしようとするのではなく、ミッションを従業員の方に十分に理解してもらい、従業員の方に、ミッションに基づいた環境対応を実践してもらう方が、事業活動が効率的になります。すなわち、経営者の方は、経営環境への対応を伝えるのではなく、ミッションを伝えることに専念すべきなのだと、私は考えています。

2024/4/23 No.2687