鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ミッションを体現している人を評価する

[要旨]

ミッションを会社内に浸透させるためには、経営者が何度も繰り返してミッションを伝えることが大切ですが、それと同時に、ミッションを体現している部下を評価することも大切です。中には、顧客をあざむいて成績をあげる従業員もいますが、そのような部下よりも、ミッションに従って活動している従業員を評価し、昇格させなければ、ミッションは浸透しません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、ドラッカーは、著書の中で、「本質において一致、行動において自由、全てにおいて信頼」という、カトリック教会のスローガンを紹介していますが、これは、一般の事業活動にもあてはまり、会社内でミッションを共有していれば、細かなルールやマニュアルは不要となり、顧客に対して質の高い対応が可能となって、競争力が高まるということを説明しました。

これに続いて、岩田さんは、ミッションをしっかり体現している従業員を評価することが大切ということについて述べておられます。「『ミッションの大切さ』について、講演やコンサルティングをしていると、よく受ける質問があります。それは、社長など、組織のリーダーからの『会社のミッションが、なかなか社員に浸透しません、どうしたらいいのでしょうか?』という質問です。私は、次のように答えます。

『まず、トップとして、ミッションについて、繰り返し言い続けて下さい』(中略)(岩田さんがスターバックスなどの社長をお務めの時)私は、社長として、どうしても伝えたいことは、何十回も話しました。『また岩田さんは同じ話をしている』と思われていたでしょう。しかし、大切なメッセージは、何十回、何百回、繰り返し言ってもいいと私は思います。ちなみに、ミッションを浸透させるために、もう一つ大切なことは、ミッションをしっかり体現している人を評価することです。

つまり、端的に言えば、誰を偉くするか、しないかです。究極は、誰を次の社長にするかです。会社のミッションや価値観を大切にしている人、体現している人をきちんと評価し、偉くしなければなりません。売上や利益などの定量的な部分でも、仕事ができることは大前提ですが、会社の価値観に合わない人を決して偉くしてはいけません。お客様を大切にするという価値観があるのに、お客様をだまして売上をあげる人がいます。

チームワークを重視しようという価値観なのに、仲間の足を引っ張る人もいます。いくら数字が良いからと言って、こういう人を決して偉くしてはいけないのです。もちろん、数字をあげ、会社に貢献してくれたことは事実ですから、ボーナスなどの金銭的な報酬で報いるべきです。西郷隆盛も言っているように、『功のあった人には禄(金銭)を与え、徳のある人には爵(地位)を与える』のです」(225ページ)

岩田さんがご指摘しておれらうように、「ミッションを体現している人を評価し、昇格させることが大切」ということは、ほとんどの方がご理解されると思います。しかし、これは、しばしば実践されないこともあると、私は感じています。最近の、大企業の不祥事を見ていると、実際は法令違反をしているにもかかわらず、よい成績をあげた人を昇格させ、後になって法令違反が明るみになるという例が、後を断ちません。

しかし、ここで私が伝えたいことは、大企業の経営者は、営業成績しか見ないで部下を評価しているということではなく(実際にそうなのかもしれませんが)、ミッションを体現している人を見分けることは難しいのではないかということです。もちろん、ミッションを体現している人の成績はよくなります。でも、法令違反や、法令違反とまではいかなくても、ミッションをないがしろにしている人の方が、見せかけの成績はよくなる傾向にあると思います。

そして、プロセスはあまり重視せずに、結果の成績に偏った評価をしていると、ミッションを体現している人が埋もれやすくなると思います。とはいえ、部下がミッションを体現しているか、そうでないかということを見分けることは難しいのも事実だと思います。しかし、ミッションが浸透しないと、現在の複雑な経営環境に対応した事業活動は、ますます実践しにくくなります。だからこそ、部下を適切に評価できるかどうかも、経営者の能力が問われるところだと、私は考えています。

2024/4/22 No.2686