鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ミッションによって意義を感じてもらう

[要旨]

会社でミッションを掲げることによって、(1)想定外の事象に対して、原理原則で判断できるようになる、(2)従業員の価値観を揃えることができるようになる、(3)ミッションに共鳴する人を集めることができる、(4)従業員に仕事の意義を感じさせることができるなど、大きな効果を得ることができます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの岩田松雄さんのご著書、「共感型リーダー-まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、リーダーが、組織のミッション、ビジョン、バリュー(行動指針)、すなわち、MVVを明確にし、メンバーの様々な意思決定の拠り所とすることで、リーダーに、都度、伺いを立てることなく、自発的に活動できるようになり、このことによって、ティール組織、すなわち、フラットな自走式組織形態に近づいていくことが可能になるということを説明しました。

これに続いて、岩田さんは、ミッションの重要性について述べておられます。「ミッションの大切さについては、主に、次の4つが挙げられます。(1)社会は常に変化しており、『想定外』の連続です。すべてのケースを事前に想定して、マニュアルを作成することは、到底不可能です。『想定外』の時には、原理原則であるミッションに戻って、確認し、判断することができます。判断を迷った時に、いちいち、社長にまで確認するようなことはできません。

その時に、個々人が、MVVに従って判断すれば良いのです。ミッションを実現する手段が、戦略や戦術で、これは、環境の変化に合わせてどんどん変えていくべきものです。ミッションも、20年、30年という単位では、変わって良いと思っています。(中略)(2)企業は組織に集まる人達は、それぞれ、違った価値観を持っています。そんな人達を、同じ方向に向かわせるには、目印となる明確なゴール・旗印・北極星が必要になります。

例えば、会社として、『お客様が第一』としているのに、お客様より金儲けを優先する人がいては困ります。ただ、この価値観の共有というのは、その人がその組織のメンバーである時だけ良いのです。就業時間内においては、その組織のMVVに従ってもらわなくてはならないのです。もちろん、アフターファイブは、それぞれの価値観に従って行動してもらえば良いのです。プライベートの個人の価値観まで強要すれば、それは新興宗教になってしまいます。

(3)ミッションを高く掲げることによって、それに共鳴する人たちが集まりやすくなります。もちろん、理念教育、ミッション教育は必要ですが、あまりに価値観の違った人が組織に入ってくると、会社も本人も不幸になってしまいます。例えば、人のために何かしてあげたいと思わない人は、サービス業に向いていないでしょう。『この旗の下に集まれ』というのがミッションです。(中略)

(4)ミッションとは、通常、とても崇高なものです。それを共有していると、自分たちの仕事の意義を感じ、特別な組織に属しているという誇りにつながります。社員のモラルが高くなり、結果的に離職率が下がります。例えば、スターバックスでは、アルバイトに80時間の研修を行います。コーヒーの淹れ方や豆の種類の勉強とともに、多くの時間をミッション教育に充てています。

ほとんどのパートナーは、スターバックスのミッションに共鳴し、その実現にコミットしてくれています。一般的に、小売業は離職率が高く、40%を超えるとも言われています。しかし、スターバックスでは、よほどのことがない限り、人は辞めません。離職率が低いから、アルバイトにまで80時間の教育投資ができる。教育投資をするから、成長意欲の高い人は辞めません。辞めないから、また教育投資ができるという、良い循環が回っているのです」(135ページ)

この岩田さんのご説明は、ほとんどの方がご理解されると思いますが、私は、(4)の仕事の意義を感じさせる役割です。例えば、ドラッカーの著書、「現代の経営(上)」に登場する、3人の石工のお話は多くの方がご存知だと思います。すなわち、「何をしているのか」と聞かれた3人の石工のうち、1人目は「これで食べている」、2人目は「国で一番の仕事をしている」、3人目は「教会を建てている」と答え、ドラッカーは、3人目の男がマネジメントを理解していると述べています。

この3人目の男について、ドラッカーは、「マネジメントを理解している」と表現していますが、これは、仕事の意義を理解しているということでもあります。このことによって、日常の仕事が、単なる作業ではなく、意義の大きい仕事であると認識し、誇りを持って能動的に仕事に臨むことができるようになり、業績にも良い影響を与えることになるでしょう。そして、岩田さんご自身も実践したように、スターバックスでも、ミッションが従業員の方のモラルを高めることに役立っています。

ただし、このミッションによって従業員の方に意義を感じてもらうためには、労力と時間がかかります。特に、ミッションだけが崇高に掲げられていても、それに応じた具体的な活動が行われていないと、看板倒れになってしまいます。また、経営者の方自身も、意義を感じて仕事に臨んでいなければ、従業員の方もそれを感じることはないでしょう。すなわち、言行一致、率先垂範という、基本的なことが大切と言えると、私は考えています。

2024/4/16 No.2680