[要旨]
千葉ロッテ監督の吉井さんは、コーチが監督の采配に疑問を持たず、唯々諾々と従っているだけでは、選手のモチベーションが下がってしまうので、コーチは、現場レベルで選手が考えていることと、マネジメントの立場で全体を見て監督が考えていることの間の齟齬を、翻訳して埋める役割があると考えているそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、千葉ロッテマリーンズ監督の、吉井理人さんのご著書、「最高のコーチは、教えない。」を読んで私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、海外のチームスポーツの人たちは、ケミストリー(化学反応)という意識を強く持っており、それは、個と個の強みが交じり合うことで、チームに変化をもたらし、それが勝利につながるという考え方であるということについて説明しました。
これに続いて、吉井さんは、コーチは監督の采配に疑問を持たず、唯々諾々と従っているだけでは、選手のモチベーションが下がってしまうということを述べておられます。「監督が、作戦について迷っていて、選手に聞いて欲しいというケースもある。(中略)こういうときに、コーチが曖昧な考えのまま聞くと、選手はプライドに賭けて勝負したいと言うはずだ。しかし、勝負、敬遠、何れにせよ作戦に関わる決定を選手にさせてはいけない。なぜなら、その決定に対して、選手が責任を負うことになるからだ。こういう時は、明確な指示を出し、現場の選手には安心してプレーさせるべきだ。
そういう場面では、コーチが作戦の決断を行い、監督と選手両方が納得する伝え方をしなければならないこともある。そこで、『監督が歩かせろと言っているから、次のバッターで勝負や』と選手に伝える。選手は勝負したくても、監督命令であれば背けない。渋々でも納得させ、ベンチに戻ってから監督に、『ピッチャーが次で勝負と言っていたので、歩かせます』と伝える。これで、選手たちも思いっきりプレーできるし、指示を出した監督も結果を受け入れることができる。
反対に、ビジネスシーンでは、上司が言ったことを、そのまま、部下に伝えてしまうケースがあると聞く。現場レベルで部下が考えていることと、マネジメントの立場で全体を見て上司が考えていることの間に『ずれ』が生じ、上司の無理解に部下が腹を立てる。その齟齬を翻訳して埋めるのがコーチの重要な役割だ。翻訳するときには、直訳ではコーチの存在が意味を持たない。ある程度は腹をくくり、『意訳』をする覚悟も必要だと思う」(236ページ)
いわゆる中間管理者が、経営者の指示を、そのまま、部下に伝えるだけであれば、中間管理者の役割を果たすことにならないということは、吉井さんの指摘する通りであり、多くの方もそう理解すると思います。経営者は会社全体を俯瞰して指示を出しており、従業員は現場の視点で判断をして活動しているので、両者の考えはときどき対立することがあります。だからこそ、両者の立場が分かる中間管理者は、経営者の指示を『翻訳』する役割を持っているということになります。
ところが、それは分かっていても、吉井さんの指摘する「翻訳」をすることは簡単ではありません。私も、翻訳は必要と思いつつ、どうすれば、翻訳のスキルを高めることができるかは、明確に示すことができません。こればかりは、現場に入り、経験を積むしかないのではないかと思います。少なくとも、単なるメッセンジャーボーイでしかない中間管理者は、従業員の士気をさげ、事業活動に悪影響を与えることになります。
2023/5/20 No.2348