鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

お客さまとは恋人のように接する

[要旨]

松江市にある島根電工の社長の荒木恭司さんは、部下たちに対して、顧客を自分の大切な人と同じように接するよう指導しているそうです。なぜなら、顧客の95%は、不満を感じても口にせず、次からは、黙って他の会社に仕事を依頼してしまうので、そのようなことになってしまうことを防ぐために、丁寧に接することが求められるからだそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、島根電工の社長の荒木恭司さんのご著書、「『不思議な会社』に不思議なんてない」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、島根電工では、現場100箇所、感動100箇所」というスローガンを掲げていますが、これは、「100の現場があれば、100の感動が生まれるように」という意味であり、それを実践するために、お客さまと向き合って、心から信頼される人間になるよう、誠意を尽くすという経営者の意思が社内に浸透しているということについて書きました。

これに続いて、荒木さんは、お客さまのことを、自分の恋人や兄弟のように思って接することが重要ということについて述べておられます。「アメリカの市場調査の大手、ギャラップ社の調査によると、飲食店に対するクレームの多くは、価格や食事のまずいうまいではなく、店のサービスに対するものだそうです。私もよく牛丼店に入りますが、吉野家であっても、松屋であっても、すき家であっても、味はだいたい一緒に感じます。店の雰囲気や価格も似たようなものです。

どこで食べても一緒なのに、『俺はあの店に行く』と決めているのは、やはり、店員のサービスが違うからでしょう。さらに、ギャラップ社によると、クレームがあっても、95%は何も言わずに黙って去るそうです。(中略)例えば、私たちがレストランに入ったとします。そこに頭にくるウェーターがいたら、その場で文句をいうのは5%ですから、ほとんどの人は黙っています。でも、二度とそのレストランには行きません。

行かないだけならいいのですが、たいたい1人が20人に、『あの店はやめた方がいいそうだ』と言うでしょう。それを聞いた人が、また10人に、『あの店はやめた方がいいそうだ』と言うでしょう。実際にこれくらいの割合で広がっていくそうです。これは恐ろしいことです。ねずみ算式に悪いうわさが広がってしまいます。私たちの会社に、直接、文句を言ってくれるお客さまはいいのですが、黙って去っていく95%が怖い存在です。

『この会社には二度と頼まない』と思われないためには、お客さまと、直接、接する社員のサービスが、一番重要なのです。では、どんなサービスが必要なのか。私は、社員たちに、『お客さまを自分の恋人と思え、兄弟と思え』と話しています。もし、自分たちの恋人や兄弟が、『電気がつかないから来て欲しい』、『水道の水がボタボタ落ちて止まらない』、『トイレの水があふれた』と言ってきたら、どうするでしょうか。何をおいても、すぐに飛んでいくのではないでしょうか。

そして、『大丈夫だった?』、『もう心配ないよ』、『すぐ直してあげるからね』と優しい言葉をかけるでしょう。お客さまも同じです。お客さまのことを自分の恋人や兄弟だと思えば、自然と優しい振舞や言葉かけができるでしょう。自分の大切な人と同じように、お客さまに接して欲しい。そうすれば、親身で心のこもった丁寧なサービスができます」(30ページ)

荒木さんがご指摘しておられるように、顧客に対しては丁寧な応対をしなければならないということは、ほとんどの方がご理解されると思います。ところで、荒木さんは、部下たちに対し、「自分の大切な人と同じように、お客さまに接して欲しい、そうすれば、親身で心のこもった丁寧なサービスができます」と述べておられますが、これは完全にサービス業の考え方です。

とはいえ、島根電工は、ドメインチェンジにより、建設業ではなくサービス業として事業活動を行うことにしたわけですから、当然、サービス業のマーケティング手法をとり入れなければなりません。本旨から少しそれますが、荒木さんが、部下に対して、顧客へは自分の大切な人と同じように接しなさいと指示をする場合、今度は、経営者も、部下たちを顧客と同様に接しなければなりません。これは、サービス業のマーケティングの中の、インターナルマーケティングと言います。

すなわち、従業員が顧客に対して親身に接するようにするためには、口頭で指示するだけでは足らず、経営者も従業員を大切にしなければならないということを忘れてはなりません。話しを戻すと、島根電工は、建設業からサービス業にドメインチェンジをしたわけですが、島根電工に限らず、これからの建設業(だけではありませんが)は工事がきちんとできて当たり前であり、本業での差別化を行いにくくなっています。差別化を図るとすれば、従業員がどれだけ顧客を満足させることができるか、期待以上の価値を実現できるかという部分しか残っていません。

したがって、島根電工では積極的にドメインチェンジをしましたが、他の建設会社も意図しなくてもサービス業の考え方を取りいれなくてはならなくなっていくでしょう。だからこそ、いま、なかなか業績が上向かずに苦心している会社は、積極的にドメインチェンジを行い、また、従業員の満足度を高めることを通して、顧客満足度も高めるという、インターナルマーケティングの手法を採り入れることが求められていると、私は考えています。

2024/3/1 No.2634