鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

古書店のブックオフは何を売っている?

[要旨]

ブックオフは、業種は古書店ですが、実態としては、古書を売っているのではなく、「家の中のものを捨てなくない人のためのインフラ」を提供している会社です。すなわち、事業は業種で良し悪しを見るのではなく、きちんと、顧客に価値を提供できる事業領域に展開しているかどうかで判断すべきです。


[本文]

今回も、一橋大学楠木建教授のご著書、「ストーリーとしての競争戦略」から、私が気になったところをご紹介したいと思います。今回は、ブックオフの事業ドメインについてです。楠木教授によれば、従来の古書店では、経験の長い店主が、買取のために持ち込まれた古書を目利きしており、その能力が業績を左右していたそうです。

しかし、1990年に1号店が開店したブックオフでは、古書店でありながら、状態のよい本は定価の1割で買い取り、きれいにして定価の50%で売る、3か月以上経過して売れ残った本と、5冊を超える在庫がある本はは100円で売る、売れない本でも引き取って処分するというように、買取価格の決め方を標準化したそうです。

従来の古書店も、ブックオフも、業種は同じ古書店ですが、ブックオフは古書を売っているというよりも、「家の中のものを捨てなくない人のためのインフラ」を提供していると、楠木教授は指摘しています。これは、私の考えですが、「業種」は同じであっても、事業ドメインが違えば、まったく別の事業になると考えています。

別の例で言えば、昭和51年に、寺田運輸(現在の、アートコーポレーション)が引越業を始めましたが、業種としては、運送業であるにも関わらず、いまでは、荷物の運送業と引越業は別の事業と言えます。最近では、トヨタが、「『自動車をつくる会社』から、『モビリティ・カンパニー』にモデルチェンジする」、すなわち、製造業から、移動に関わるサービスを提供する会社になると、事業ドメインを変えることを宣言しています。

今回、私が、事業ドメインについて触れたのは、業績があまりよくない会社は、業種にこだわっていることが多いと感じたからです。ただ、会社の中にいると、事業ドメインを変えることはなかなか難しいようです。というのも、「自社の業界は、こういうものだ」という先入観が大きいからです。

ちなみに、楠木教授は、ブックオフは、古書店業界の環境変化があったから事業機会が発生したのではなく、事業ドメインを変える発想があれば、1960年代にも同じような古書店があっても不思議ではないと述べておられます。私もそう思うのですが、新しい事業ドメインを見つけるのは、簡単なようで難しいということも現実だと思います。でも、楠木教授の指摘の通り、常に、新しい事業ドメインを意識することは、大切であると思います。

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