鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

コミュニケーションの増加で離職を防止

[要旨]

変圧器メーカーのNISSYOの社長の久保寛一さんは、社員が会社を辞める理由は、(1)『仕事』が嫌で辞める、(2)『上司』が嫌で辞める、(3)『会社』が嫌で辞めるの3つに大別できると考えているそうです。そこで、適性に合わせた配置転換、社内コミュニケーションの活発化、価値観教育の実施などを行い、人材流出を防いでいるそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、NISSYOの社長、久保寛一さんのご著書、「ありえない! 町工場-20年で売上10倍! 見学希望者殺到!」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、久保さんは、従業員の採用にあたっては、能力が高い人よりも、価値観を共有できる人を採用するようにしており、その結果、12年間で退職した新卒社員は5名のみ、新卒定着率は80%以上となり、これが組織の活性化を通して、業績を高める要因になっているということについて説明しました。

これに続いて、久保さんは、人材流出について、3つの理由があると考え、それぞれについて対策を実践しているそうです。「社員が会社を辞める理由は、(1)『仕事』が嫌で辞める、(2)『上司』が嫌で辞める、(3)『会社』が嫌で辞めるの、大きく『3つ』に大別できます。『仕事』が嫌になるのは、本人の特性に合った仕事に就いていないからです。人事異動を行うなどして、仕事の内容を変えると、離職を防ぐことができます。『上司』が嫌いになるのは、コミュニケーション不全が原因です。

面談やイベント、飲み会を定例化するなど、社内の風通しを良くするしくみが必要です。『会社』が嫌になるのは、会社の方針を教えていないからです。『会社のルールを知らない(知らされていない)』という不満を募らせると、離職率が高くなります。経営計画書の方針に基づいた価値観教育を実施して、会社のルールを周知することが重要です」

まず、離職率を0%にすることは、実際にはできないと、私も考えています。しかし、可能な限り低くすることは、事業活動を安定させることになるので、そのための努力を行うことは大切だと思います。次に、久保さんの会社で実践している対策について、きちんとした効果があるのかということについては、私も明確には分かりません。しかし、社内でのコミュニケーションが不足していると、従業員の方の不満が大きくなってしまうので、きちんとコミュニケーションを確保することは欠かせないということは間違いがないと思います。

そして、コミュニケーションが重要であるということが誤っていると考える人はほとんどいないと思いますが、その一方で、会社の中でコミュニケーションが確保されていないという例は珍しくないと、私は考えています。そうなってしまう理由の1つは、一般的に経営者の方は、自分が考えていることは、部下たちも理解しているはずだと考えてしまうことです。しかし、実際にはそういうことはなく、経営理念や、社長の方針などは、従業員の方が、「もう聞き飽きた」と感じるくらい伝えないと伝わらないものです。

それくらい、経営者の方は、自分の考え方は、何度も伝えないと伝わっていないと意識する必要があると思います。もう1つの理由は、「従業員同士で話をしている時間があるなら、もっと客まわりをするべきだ(手を動かして製品をつくるべきだ)」という考え方をする経営者の方が多いからだと思います。確かに、顧客訪問や、製品づくりも大切ですが、会社内のコミュニケーションを密にして、チームワークを高めることも重要です。例えば、東京都立川市にある、センサーを製造する会社のメトロールでは、「1人の社員が年間を通じて全社員と1時間ずつトークする『対話研修』」を行なっているそうです。(ご参考→ http://tinyurl.com/mrfu8dkv

もちろん、社員同士のトークは「研修」なので、勤務時間中に行われている、すなわち、賃金が支払われているそうです。メトロールが対話研修を行っている理由は、中小企業であるからこそ、チームワークが重要であり、そのために、従業員同士がお互いを知る必要があるという、社長の考えによるもののようです。ちなみに、メトロールの売上高は、社長の松橋さんが入社した1998年は5億円だったそうですが、現在は、23億円まで伸びているそうです。このように、現在は、社内のコミュニケーションは重要であるということを、経営者の方には、改めて認識していただきたいと、私は考えています。

2024/2/20 No.2624