[要旨]
会社が起業したばかりのころは、役員同士で会社の存在意義が共有されていますが、規模が大きくなるにつれ、役員は、自分の担当部門の目標達成ばかりに注力するようになってしまいます。これは、部分最適の視点からの活動を招くことになるので、会社の共通目的を意識するように働きかけ、全体最適の視点での活動を促すようにすることが大切です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの鈴木義幸さんのご著書、「未来を共創する経営チームをつくる」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、組織の習熟度が高まると、会議の場では、お互いの対立点から、組織を俯瞰した新たな意思決定が行われるようになるということについて説明しました。鈴木さんは、その組織の習熟度を高めるための事例について、同書で紹介しておられます。
「会社というのは、起業したばかりの時は、経営チームや社員の間で、はっきりとパーパス(事業の目的=会社の社会的存在意義)が意識されているものです。『社会に対してこんな貢献をしよう』、『こういう社会問題を解決しよう』-これらが意識され、社内で話されています。ところが、会社が大きくなると、次第にパーパスよりも、目標が優先されるようになっていきます。特に、会社が上場を目指すとなると、はっきりと“達成すべき目標”が目前に立ち現れます。
月次目標、四半期目標、通期目標-それらを一つひとつ達成することで、上場が近づいてきます。各役員は、それぞれの部門目標を意識し、必ずそれを達成するように、部下を叱咤激励し、達成が危うくなれば、いらつき、焦り、夜の眠りは浅くなります。こうして、いつの間にか、役員同士は、共創より、ただ自分の責任を果たすことに強く意識が向かっています。(中略)こうして、“自分が、自分が”と、エゴが肥大化し、協力して何かを生み出すという気持ちが、知らず知らずのうちに薄れます。
ですから、共創が失われてきたと感じたら、また、全員で一つの目標に向かっている感覚が薄れてきていると感じたら、改めて、『この会社の社会的存在意義は何なのか?』というパーパスにもどる必要があります」(147ページ)私は、会社の経営理念(または、企業理念、基本方針等)が重要だと考えていますが、これを重視している会社は、意外と少ないと感じています。「重視」していないという意味は、経営理念を作っていない、作っていても抽象的であったり、形式的に存在しているだけで、従業員の活動に浸透していないという状態を指します。
とはいえ、人は、どうしても、目の前のことに行動を左右されやすいので、事業活動に直接たずさわる従業員も、経営理念を常に意識する必要があるでしょう。したがって、組織の習熟度を高めるためには、経営者の方は、頻繁に経営理念を説明する機会を作ったり、自らがそれを実践して見せる他、「クレド」などを作って権限委譲するという手法を採り入れる必要があるでしょう。また、BSCを導入すると、会社の最終的なゴールと、各部門、各従業員の目標を、戦略マップによって有機的に関連付けることができます。したがって、BSCの導入も、組織の成熟度を高める方法として有効です。
2022/8/31 No.2086