[要旨]
組織の構成員が、自分の目標だけを達成するための活動をしていれば、単純に、構成員の業績の総和が組織の業績になるに過ぎません。しかし、各構成員が組織の目標も意識して活動することによって、組織の業績は、構成員の業績の総和+αの成果を得ることができるようになります。これが組織活動のメリットであり、構成員は、組織のための活動をすることになるとしても、その報いを受けることができます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの鈴木義幸さんのご著書、「未来を共創する経営チームをつくる」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、大企業の役員たちが組織的な活動ができない理由のひとつは、自分に割り当てあられた目標を達成しさえすればそれでよいという、部分最適な考え方をしてしまうためということについて説明しました。これについて、鈴木さんは、その対処法となる考え方について、同書で述べておられます。
「仮に、チームの全員が、“自分の目標”を達成し、例えて言えば、『1+1+1=3』になったとします。こうなったとしても、“チーム”であるとは言い難いでしょう。これは、チームではなく、“個人事業主の集まり”だと思うのです。“集団”であって、“チーム”ではない。そこにはいわゆる“シナジー”がないからです。“チーム”であるなら、『1+1+1』が4や5になっていかないといけない。少なくとも、そういうマインドをメンバーは持つ必要があります。
本当に、“チーム”として機能すれば、『1+1+1』の和は3より大きくなるでしょうし、逆に、機能しなければ、3より小さくなることもあり得ます。つまり、チームは“共創”しているわけです。共に何かを一緒に創り出している、部分の総和以上のものをアウトプットすることができる、だから、チームとして集う意味があります。部分の総和が全体ならば、チームとして機能しているとは言えません」(65ページ)
鈴木さんのご指摘しておられる、「1+1+1>3」という考え方は、多くの方が理解しておられると思います。事業活動において、個人の目標や自分の所属する部署の目標だけを意識していると、「1+1+1>3」ではなく、「1+1+1≦3」になるので、組織的な活動をする意味がなくなってしまいます。そこで、組織の構成員は、自分の目標と、組織の目標の両方を意識しなければなりません、そして、組織の目標が達成されれば、+αの部分は、構成員に還元さます。しかも、それは、個人的な活動では得られないものですので、組織にとっても、組織の構成員にとっても、メリットがあるということになります。
ところで、ときどき、「組織のための活動はしたくない」と考える方を見ることがあります。もちろん、組織の構成員に過重な負担を強いて組織の目標を達成している組織はがあるとすれば、その組織は、早晩、活動が行き詰るでしょう。しかし、組織に属しながら、個人の目標しか意識していない人がいるとすれば、前述のように、組織に属する意味がないことになります。したがって、繰り返しになりますが、組織に属している人たちは、常に、個人の目標と組織の目標の両方を意識して活動することが欠かせません。
ちなみに、最近は、事業を行う会社が、販売相手だけでなく、仕入元の会社も重視するという例が増えています。それは、自社だけが成果が上がればよいと考えるよりも、サプライチェーン全体の成果が上がれば、それは自社の成果を高めることにつながるいう考え方によるものといえるでしょう。例えば、最近の原材料価格の上昇を受け、トヨタ自動車は、仕入先のコスト増加分を負担するという支援策を行うことを公表しました。21世紀は、こういった、高い視点での事業活動が重要になっていると思います。
2022/8/26 No.2081