鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

迅速なクレーム対応から大口受注に

[要旨]

羽村市の変圧器メーカーのNISSYOでは、クレーム対応を最優先にしており、それに関する基本方針を明文化しています。そのため、迅速なクレーム対応を可能にしており、中国の会社からクレームが来たときに、迅速にお詫びに行ったところ、誠実さを評価され、逆に、1億円の受注を得ることができたこともあったそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、NISSYOの社長、久保寛一さんのご著書、「ありえない!町工場-20年で売上10倍! 見学希望者殺到!」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。

前回は、NISSYOでは、基幹事業である変圧器製造に加え、ソフトウェア開発と人材派遣に多角化しましたが、これは、同社の人材育成能力が高いために実現できることであり、これからの製造業の成功の鍵は、「ものづくり」から「ひとづくり」に比重が移りつつあると言えるということについて説明しました。

これに続いて、久保さんは、同社では「クレームに関する基本方針」を定め、製品納品後のクレームに迅速に対応することを明確にしたということについて述べておられます。

「当社は、納品後のクレームにも迅速に対応しています。

[クレームに関する方針]

1.基本的な考え方

(1)クレーム対応は最優先業務とする。

(2)当事者にクレーム発生の責任は一切追求しない。発生の責任は社長にある。本来、すべて社長が受けるべきだが、ひとりでは受けきれないので、当事者が社長に代わって対処する。

(3)クレームに対する正しい態度は、謝罪と迅速な対応である。

(4)クレームはお客様の目から見た業務改善の指摘である。

2.対処の手順

(1)当事者と上司が事実確認とお詫びに行く。お客様の前に顔を出すことが大事。対処は後でよい。

(2)当事者を含め、3人以上でお伺いする。

(3)解決するまで何回でも足を運ぶ。

(4)必要なお金はわが社で出し、処理は丁寧にお願いする。

数年前、当社が中国に輸出した製品に不具合が発生しました。あろうことか、『出火して燃えた』というのです。(中略)クレームをいただいた翌日に、専務、設計部長、製造部長の3人が現地に飛びました。(中略)現地に到着後、直ちに現場検証を行ったところ、出火原因が判明しました。当該品の隣に設置されてあった別メーカーの機器が火元になっていたのです。当社にしてみれば、『もらい事故』でした。

『自社に原因があったわけではない』のですが、結果的に『誠意を見せた』ことになります。この対応が認められ、取引先から思いもよらない提案を受けたのです。『ある会社に製品を発注したのだが、なかなか製品がとどかない。代わりに御社でつくってもらえないか』(中略)クレームの謝罪に行ったはずなのに、『1億円』の新規受注をいただくことができたのです」

クレームが起きた時に、迅速に対処することは、クレームによる損失を最小限にするために欠かせない要素です。とはいえ、久保さんが挙げた事例のように、クレーム処理が受注につながるという事例は、一般的には皆無ではないとしても、それほど多くないということも現実だと思います。ただ、私が重要だと思ったことは、NISSYOでは、「クレームに関する方針」が明文化されていたことです。多くの会社経営者の方は、自社にクレームが起きたときは、最終的には経営者の責任であると考えている方がほとんどだと思います。

その一方で、その考え方を明文化していたり、常に部下たちに伝えていたりしている会社は少数ではないでしょうか?このような状態になってしまう原因のひとつは、経営者は、自分の考えていることは部下たちも理解していると考えてしまうからだと思います。また、仮に、経営者の方が、「仕事でトラブルがあったら、オレが責任を取る」と口にしていたとしても、実際にトラブルが起きたら、「どうしてこんなことになったのだ!」と、部下を追求することも少なくないのではないでしょうか?

そういうことが起きてしまうと、経営者の方は、クレームの責任は自分が取ると考えていても、部下は、クレームが起きた時に、それを隠そうとしてしまうことにもなりかねません。ですから、経営者が、クレームの責任は自分が取ると考えるだけでは不十分であり、「クレームに関する方針」をつくり、さらに、明文化することが欠かせないと、私は考えています。そして、NISSYOでは、クレームに関する方針が明文化されていることによって、久保さんは有言実行であると部下たちに評価され、信頼を得ているのではないかと、私は考えています。

2024/2/14 No.2618