鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

長期計画を環境変化に適応させる

[要旨]

変圧器メーカーのNISSYOでは、5年先までの計画である、長期事業構想書を作成していますが、同社では、それを、5年ごとに作成するのではなく、毎年、新たな5年計画を作成しているそうです。これは、長期計画にも環境変化に適応させる必要があるという理由によるものです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、NISSYOの社長、久保寛一さんのご著書、「ありえない!町工場-20年で売上10倍!見学希望者殺到!」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、NISSYOでは、かつては、久保さんがひとりで経営計画書をつくっていましたが、現在は、より現場に近い幹部の方がつくっており、それは、価値観に関する教育を行っていることからできるようになったのですが、社長ひとりでつくるよりも、現場の意見が反映された成果物となっているということについて説明しました。

これに続いて、久保さんは、5年間の長期経営計画書も作成しているということについて述べておられます。「経営計画書の、『長期事業構想書』は、今期から5年先までの計画なので、『5年後にまたつくり直せばいい』と考えることもできます。しかし、当社では、毎年、長期事業構想書を書き換えています。なぜなら、自社をとりまく状況は、刻々と変化しているからです。

東日本大震災リーマン・ショック、チャイナ・ショック、新型コロナウィルス感染症の拡大など、社会情勢の変化によって、自社の醸成も大きく変わります。『期待していた事業が伸び悩んだ』、『取引先を失った』、『ライバルが参入してきた』、『新規事業がうまくいかなかった』などの理由で経営環境が変われば、すぐに対策を講じなければなりません。現況が変われば、展望も変わります。社長は経営環境の変化に敏感でなければならない。だからこそ、長期事業構想を見直す必要があるのです。

製造部の青木嵩汰(2013年入社)も、『会社の長期的な将来性』を見据えて、当社に入社してきました。『NISSYOに入社を決めた理由は、大きく2つあります。ひとつは、地域性です。(中略)もうひとつは、会社の将来性です。経営計画書に長期事業構想書があるのは、社長の久保が常に先を見据えた経営をしているからです。入社当初、久保が、“5年後には、あなたの下に部下が15人つきます”と言ったとき、私は想像もしていませんでしたが、実際にそうなって、とても驚いています。野心を持って、夢を持って、常にチャレンジする久保の姿を見ていると、“自分もああいう大人になりたい”と思います。(青木嵩汰)」(186ページ)

久保さんが述べておられる長期事業構想書は、直接は言及されていませんが、ローリングプランのことだと思います。このローリングプランは、長期計画の種類のひとつです。ちなみに、ローリングプランに対して、一般的な長期計画は、フィックスプランと言われることもあります。では、ローリングプランとはどういうものかというと、毎年、新たに立てられる長期計画のことです。したがって、ローリングプランは複数年にわたる計画であるにもかかわらず、2年目以降の部分は遂行される前に、新たな計画に引き継がれるということになります。

一方、フィックスプランでも修正が行われることがあります。しかし、フィックスプランは、ローリングプランと異なり、修正が行われても、当初の計画の大部分はそのまま遂行されることになります。また、計画期間も当初と同じとなるので、修正された場合であっても、計画の2年目以降の部分も使い続けられれます。では、フィックスプランでも計画の修正が可能なに、なぜ、ローリングプランのように、あえて新たな計画を毎年作成するのかと言うと、長期計画を、環境変化に、できる限り沿うものにするためです。

フィックスプランの場合、修正が可能とはいえ、経営環境の変化の大きな時代は、計画期間が終わるまでに、計画の前提が大きく変わってしまうことがあり、計画の意義が薄れてしまいます。一方、ローリングプランでは、毎年、経営環境の変化に応じた長期計画を立てることで、フィックスプランの弱点を補うことが可能になります。これに対し、経営環境の変化が激しいのであれば、長期計画を立てずに、計画期間が1年の短期計画だけを立てていればよいのではないかという考え方をする方もいると思います。

しかし、事業活動は、1年間で完結するものだけではありません。引用部分の例にもあるように、人材育成は長期的な活動です。したがって、事業を遂行するためには長期計画も必要になり、短期計画だけでは十分とはいえません。とはいえ、ローリングプランにも欠点があります。それは、毎年、長期計画を立てることになるので、その分の労力が必要になるということです。でも、これも引用部分で言及されていましたが、青木さんはNISSYOに長期的な構想があることを評価して同社に入社しました。

したがって、ローリングプランを活用するために労力がかかることは事実ですが、その分、それに応じた効果もあると、私は考えています。とはいえ、現時点で長期計画を立てていない中小企業が、直ちにローリングプランを活用するということは難しいと思います。でも、会社の評価を高めたり、業績を高めたりするには、ローリングプランを活用することは有効な方法ですので、短期計画→フィックスプラン→ローリングプランと、順を追って立案する計画を増やして行き、環境変化に強い会社を目指して行くことをお薦めします。

2024/2/26 No.2630