鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

人は『決められたこと』なら守る

[要旨]

変圧器メーカーのNISSYOの社長の久保寛一さんは、同社が黒字経営を続けているのは、数字、方針、期日を明記した経営計画書を作成し、それを全従業員が徹底的に活用しているからと考えているそうです。なぜなら、人は決められたこと、書かれたことは守るという習性があり、日々、計画的で効率的な活動ができるようになるからだそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、NISSYOの社長、久保寛一さんのご著書、「ありえない! 町工場-20年で売上10倍! 見学希望者殺到!」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、NISSYOでは、定期的な人事異動を行い、従業員の方は、3年~7年で異動させていますが、これにより、(1)多能工化が実現する、(2)職場の無理・無駄・ムラがなくなる、(3)従業員が新しいことに挑戦するようになるようになり、組織が活性化し、また、従業員も成長していくということについて説明しました。

これに続いて、久保さんは、NISSYOが黒字経営を続けているのは、経営計画書を活用しているからということについて述べておられます。「多くの製造業が利益不足で苦しんでいるなか、当社が『黒字経営』を続けているのは、『数字』、『方針』、『期日』を明記した経営計画書を、全従業員が徹底的に活用しているからです。数字……経営計画書には、今期の経営目標(売上高、粗利益額、人件費、教育訓練費、経常利益額、売上成長率)と、長期事業構想書(当期から5年先までの事業計画、粗利益計画、要員計画、設備計画、施設計画、資本金、生産性)を、具体的な数字で明記しています。(中略)

方針……経営計画書は、会社の『ルールブック』です。『戦略に関する方針』、『環境整備に関する方針』、『お客様に関する方針』、『クレームに関する方針』、『社員に関する方針』、『内部体制に関する方針』、『幹部に関する方針』など、社員が徹底すべき『約束事』を明文化しています。守るべきルールや実行すべき方針を明文化しておけば、誰が、いつ、どこで読んでもブレることがないため、社員の価値観が揃い、同じ方向に動くことができます。社長が方針を決定しなければ、社員は何を実行していいかわかりません。したがって、社長のもっとも大切な仕事は、方針を決定すること。一方、社員のもっとも大切な仕事は、方針を実行することです。(中略)

期日……経営計画書で方針を示しても、『誰が、いつ、何をやるのか』を決めなければ、その方針は、絵に描いた餅になる。ですが、人は、『決められたこと』、『書かれてあること』なら守ります。ですから、『事業年度計画表』(年間スケジュール)をつくる必要があります」(176ページ)

久保さんは、「当社が『黒字経営』を続けているのは、『数字』、『方針』、『期日』を明記した経営計画書を、全従業員が徹底的に活用しているから」と述べておられます。とはいえ、確かに、「経営計画書を作成する」ことと、「業績が黒字になる」ということに、直接的な因果関係はないと、私も考えています。でも、経営計画書が作成されている会社の方が、そうでない会社よりも、効率的な事業活動が実現できるので、業績が高まることに間違いはないと思います。

一方、経営計画書の活用について、否定的な経営者の方も少なくありません。そのような経営者の方は、「事業活動は、すべて自分でコントロールできるわけではないのだから、計画をつくることに、あまり意味はない」と考えているようです。確かに、最近は、コロナ禍のように、大きな外部環境の変化がありました。そのようなことがあれば、経営計画通りに事業活動を遂行することはできません。

だからといって、計画をつくらず、成行的な活動をするよりも、計画に基づいて活動することの方が、効率的な活動になることは間違いはありません。したがって、経営計画書は、計画を達成するというよりも、効率的な活動を目指すことが目的と考えるべきだと、私は考えています。そして、経営計画書の活用に否定的な経営者の方は、表向きは経営計画書に対して否定していますが、実際には、計画に基づいた活動や、計画と実績に乖離が生じた時の要因分析、そして、その乖離を埋めるための活動を行うことに否定的なようです。

すなわち、本来の経営者の役割である、管理活動を避けたいということのようです。確かに、成行的な活動でも、黒字になるときはあります。でも、それは、経営環境が追い風のときです。そして、その追い風は、いつも吹いているとは限りません。しかし、もし、経営環境が向かい風であっても、日頃から経営計画書に基づいた計画的な活動を続けていれば、ある程度は向かい風に抗うことができるでしょう。したがって、経営計画書をつくり、それに基づいた活動を行うことは、経営環境に左右されにくい、強い会社をつくるということだと、私は考えています。

2024/2/24 No.2628