[要旨]
株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、例えば、レストランで手間をかけた自信作の料理であっても、注文した人からの評価が得られるものでなければ、売上は増えないことから、ビジネスにおいては、顧客からの評価が得られていなければ、それ以外の評価は意味がないということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「リーダーの仮面-『いちプレーヤー』から『マネジャー』に頭を切り替える思考法」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、ビジネスではどうしても競争は避けることはできず、顧客から相対的評価を受けることになるので、リーダーは、部下に対して、その事実に目を向けさせることで、部下が社会を生き抜く力を身に付ける機会を得ることができるようになるということについて説明しました。
これに続いて、安藤さんは、会社従業員は他社評価から逃れることはできないということについて述べておられます。「評価には、2つの種類があります。それが、『自己評価』と『他者評価』です。いま、世の中には『自己評価』が蔓延しています。しかし、識学の考え方では、『自己評価』は評価とはしません。(中略)評価とは、どれだけの対価を獲得できるかを示した基準です。つまり、他者から得られるものと結びついた概念です。たとえば、レストランで料理を注文したり、アパレルショップで服を選んだりするときのことを考えてみてください。
店員さんが、『この料理は手間をかけた自信作です』、『この服では縫製にこだわりがあるんです』と説明してきたとしましょう。しかし、一口食ベてみて、美味しくなかったら、もうそのお店には行かないでしよう。洋服も、試着してみて全然似合っていなかったら、縫製のこだわりなんでどうでもよくなります。もちろん、料理や服も、気に入って購入した後であれば、手間隙やこだわりを受け入れられるでしよう。しかし、それはあくまで他者評価を得たあとの段階です。いかなるときも、最初に他者評価を獲得できないと、自己評価には何の意味も生じないのです」(195ページ)
安藤さんのご指摘と主旨がずれてしまうのですが、経営者の方の中にも、自己評価の呪縛から逃れられない人を、ときどきみかけます。というのは、経営者の方が自信を持ってつくった製品を製造することで、経営者の方が満足してしまっているという会社を、私はこれまで何社も見てきました。私は、そのことが直ちに問題になるわけではないと考えていますが、経営者の方が自信を持ってつくった製品が、必ずしも、顧客が満足する製品とは限りません。
このことはほとんどの方がご理解されると思いますが、いわゆる自社製品そのものに陶酔をしてしまいがちな経営者の方ほど、自分が評価する製品は顧客も評価するものに間違いないと考えており、自分の評価する製品をつくることだけに目が向いてしまいます。ところが、そのような製品の中には、実際には顧客から評価されないものもあり、何ら改善が行われなければ、売上が伸び悩んだままとなります。さらに悪いことには、自己陶酔している経営者の方は、業績にはあまり関心がないので、業績の悪化が進んでしまうという悪循環に陥ります。
ただ、ここで難しいのは、顧客から評価される製品は、顧客だけが決めるのかというと、必ずしもそうではないということです。例えば、iPhoneは、顧客が望んだものではなく、メーカーのApple社が顧客に提案した、プロダクトアウトの製品です。(もともと、Apple社の製品には根強いファンがいたので、Apple社の製品はどんなものでも売れた可能性はあったものの、iPhoneが世に出るまでは、いわゆるスマートフォンはなく、その後、スマートフォンが普及したのは、プロダクトアウトの製品の特長であると、私は考えています)
したがって、経営者だけが評価する製品が必ずしも問題があるとは言い切ることはできないのですが、そうなるためには、会社に「コアコンピタンス」といわれるくらいの強みがなければ、プロダクトアウトが成功する製品をつくることは難易度が高いと言えます。したがって、規模が小さく、かつ、業歴が浅い会社は、経営者の方だけの価値観で製品を評価するのではなく、顧客の評価が得られているかどうかを常に検証しながら製品の改善を重ねていくという姿勢を持たなければ、事業が軌道にのらないと、私は考えています。
そして、以前も述べましたが、ビジネスの評価は、金銭的、定量的なものに限定されます。人格は、一面的に評価はできないものの、ビジネスの評価は、その性質から、金額や数字での評価に限られます。そうであれば、その金額や数字に目を向けず、他の評価基準を持ち込むことにあまり意味はありません。繰り返しになりますが、安藤さんが、「最初に他者評価を獲得できないと、自己評価には何の意味も生じない」のです。
2025/7/8 No.3128
