鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

定期的な人事異動で組織を活性化する

[要旨]

変圧器メーカーのNISSYOでは、定期的な人事異動を行い、従業員の方は、3年~7年で異動するそうです。これにより、(1)多能工化が実現する、(2)職場の無理・無駄・ムラがなくなる、(3)従業員が新しいことに挑戦するようになるようになり、組織が活性化し、また、従業員も成長していくそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、NISSYOの社長、久保寛一さんのご著書、「ありえない! 町工場-20年で売上10倍! 見学希望者殺到!」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、NISSYOでは、社員向に、給料体系勉強会を実施しており、それへの参加を義務付けているそうですが、こうすることで、同社が機会平等であることや、努力が報われる会社であることを伝え、社員の士気を高めているということを説明しました。

これに続いて、久保さんは、NISSYOでは定期的な人事異動を行っているということについて述べておられます。「当社は、定期的に、社員の人事異動(部署交代)を行なっています。ひとつの部署に在籍する年数は、3年~7年です。7年以上、同じ部署で働くことはありません。人事異動のメリットは、(1)多能工化が実現する、(2)職場の無理・無駄・ムラがなくなる、(3)社員が新しいことに挑戦するようになる、の3つです。

(1)多能工化が実現する:多能工とは、複数の異なる作業や工程を遂行する技術を身に付けた作業者のことです。これまでの製造業では、ひとつの作業や工程だけを遂行する『単能工』(いわゆる職人)が一般的でしたが、現在では、多能工化していく動きが活発になっています。繁忙期やイレギュラーな仕事が発生したとき、多能工のスキルを持っていれば、さまざまな担当業務を行うことができます。人材を流動的に動かすことができるため、突発的な依頼にも対応が可能です。また、社員が幅広い業務を担当できるようになれば、普段からお互いをフォローする体制が構築されるので、自然な形でチームワークが醸成されます。

(2)職場の無理・無駄・ムラがなくなる:同じく仕事を長く続けていると、新鮮味が薄れ、客観性を失うことがあります。人事異動をすると、『新しいやり方』で仕事に取り組むようになるので、これまで慣例だった職場の無駄や、非効率なプロセスを見つけることができます。

(3)社員が新しいことに挑戦するようになる:同じ部署に長くいると、『自分は仕事ができる』と錯覚します。過去の体験にしがみつき、マンネリ化し、気が緩み、変化や失敗を恐れるようになります。人事異動を行なえば、新たな体験をすることになるので、失敗から学ぶことができます。新しい部署で新しい仕事をすれば、最初は必ず失敗します。しかし、人の成長は、失敗なくしてありえません。『なぜ失敗したのか、どうすれば次はうまくいくのか』を考え、改善する。こうして人は成長します。大規模な人事異動を断行すると、一時的に現場は混乱します。ですが、組織を活性化させるためには、人事異動によって会社を変化させていくことが重要です」(164ページ)

この久保さんのご指摘も、ほとんどの方がご理解されると思います。ところが、規模が小さい会社ほど、定期的な人事異動は行われていません。そのような会社は、多能工化もあまり進みません。では、なぜ、人事異動が行われないのかというと、従業員数がぎりぎりだからということが理由になっているのだと思います。従業員数がぎりぎりであれば、もし、人事異動を行うと、事業での混乱が大きくなってしまい、なかなか実践に踏み切ることができないのだと思います。しかし、久保さんがご指摘しておられるように、人事異動が行われなければ、組織が活性化せず、競争力が弱い会社のままでいることになります。

したがって、経営者の方に求められることは、定期的な人事異動が実践できるよう、ある程度の余裕を持った従業員数を確保することだと、私は考えています。繰り返しになりますが、これに対しては、収益力に余裕がないのに、従業員数を増やすことは難しいという状況があることも事実だと思います。とはいえ、仕事が属人的になっていると、競争力は高まりません。そこで、いきなり正社員を増やすことは難しいという会社では、パートタイマーの方の数を増やし、パートタイマーの方の多能工化を進め、定期的な人事異動は効果があるという理解を会社内で涵養していくという対応をお薦めします。

2024/2/23 No.2627