鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

DX推進にはエンゲージメントが必要

[要旨]

会社でDXを進める際には、エンゲージメント、すなわち、社員と会社の間に存在する強い信頼関係が必要となります。しかし、エンゲージメントは必ずしも高い会社ばかりではないので、エンゲージメントが十分ではない会社は、DXを進める中で、エンゲージメントを強化していくことが得策と考えられます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、冨山和彦さんと望月愛子さんのご著書、「IGPI流DXのリアル・ノウハウ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、DXは必要ないと考えている中小企業経営者の方も少なくないようですが、むしろ、DXが遅れているという状況は、改善の余地が大きかったり、競合を出し抜くチャンスがあるということでもあるため、積極的にDXを取り入れることが望ましいということについて書きました。

これに続いて、冨山さんは、会社内でDXを進めるには、エンゲージメントを高めることが大切ということについて述べておられます。「具体的にDXを進める際、ぜひ、心掛けてほしいのが、『現場を巻き込む』ということである。今すぐに着手可能なDXについては、その実行に向けて現場に落とし込まれていくことになるが、こうした具体論については、当然、現場の方が詳しい。しかも、現場を巻き込むことで、経営と現場の距離を近づける機会となり、DXのムーブメントを現場に引き起こすきっかけにもなる。これは、つまり、DX推進は、会社に対する現場の『エンゲージメント』を高める施策となり得るということだ。

エンゲージメントとは、社員と会社の間に存在する強い信頼関係を意味する。社員は会社のために貢献することを、そして、会社はその貢献に報いることを約束する。このような理想の状態を実現することは、DXに限らず、会社が何かを成し遂げるうえで、重要な条件となることは言うまでもない。一般的に、このエンゲージメントは、自らの仕事や会社に、誇りや将来性を感じ、会社に貢献していく意義・目的を社員が見出すことによって高まるが、自分の会社がDXを通じた未来志向の現場改革を目指しており、経営トップもそれに大きな関心を示していることは、このエンゲージメントを大いに高め得るものとなるだろう。

そのための施策として、DXを検討する分科会に、経営トップが積極的に参加したり、Zoomなどを活用してこうした会議により、多くの人がオーディエンスとして参加できるようにするといった活動が有効だろう。自らの取り組みが会社の未来に関わり、経営陣の議論の対象となっていることを実感できれば、現場の熱量はぐっと上がる。一つひとつの施策効果は小粒に見えたとしても、現場で発生している工数の多さを考えれば、その効果は大きい。DXによる現場改善の取り組みは、確かに地味かもしれないが、『インパクトが少ない』ことは、まったくない。(63ページ)

冨山さんも述べておられるように、「理想の状態を実現することは、DXに限らず、会社が何かを成し遂げるうえで、重要な条件となる」わけですが、多くの中小企業では、このエンゲージメントが十分に高くないようです。ですから、DXを進めるかどうかの前に、多くの会社では、エンゲージメントの形成が課題となっていると言えます。ただ、現在は、事業活動の改善にはDXが関わるので、DXとエンゲージメントは、事実上、組み合わさっている課題と言えるでしょう。

しかし、冨山さんが、「自分の会社がDXを通じた未来志向の現場改革を目指しており、経営トップもそれに大きな関心を示していることは、このエンゲージメントを大いに高め得るものとなる」とも述べておられるように、DXを進める際に、あわせて自社のエンゲージメントを高めるきっかけとすれば、自社の事業は相乗的に改善することになるでしょう。もちろん、DX化とエンゲージメントの向上をいっしょに行うことは、経営者にとって、決して小さな労力でできることではありませんが、第4次産業革命の中にあっては、この課題から逃れることも困難な状況にあると、私は考えています。

2024/5/9 No.2703