鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

慢心する社長は『4大疾病』にかかる

[要旨]

経営コンサルタントの板坂裕治郎さんによれば、中小企業経営者の方はポテンシャルが高いにもかかわらず、自分がすべてを決められる立場にいるために、慢心してしまいやすく、その結果、会社の事業を悪化させることになるので、相当の注意を払うことが求められるということです。


[本文]

経営コンサルタントの板坂裕治郎さんのご著書、「2000人の崖っぷち経営者を再生させた社長の鬼原則」を拝読しました。同書で、板坂さんは、中小企業経営者は、「社長の4大疾病」にかかりやすいということをご指摘しておられます。「中小零細弱小家業のアホ社長さんは、必ずといっていいほど大きな病気にかかっている。しかも、自覚症状がない。それは、『社長の4大疾病』4大疾病といっても、ガン、脳卒中心筋梗塞、糖尿病といった、生ぬるい病気ではない。怠慢、放漫、自堕落、無知。これがアホ社長が必ず患っている『4大疾病』だ。

・『怠慢』=当然しなければならないことをなまけて、おろそかにすること。・『放漫』=おごりたかぶって人を見下すこと。・『自堕落』=行いや態度などにしまりがなく、だらしないこと。・『無知』=知識がないこと、知恵がないこと、学ぼうとしないこと。私の言う『アホ社長』の定義とは、本来持っているポテンシャルを使い切れていない社長さんのこと。商いの最前線で体を張っている中小零細弱小家業の社長さんたちは、基本的に高いポテンシャルを持っている。ただ、長く社長でいるうちに、徐々に社長の『4大疾病』に冒され、アホ社長になってしまうのだ。

働く人ならだれもがその病の種を持っているが、中小零細弱小家業の社長さんほど発病しやすい環境にいる人はいない。なぜなら、大企業の『雇われ社長』のように、株主からのプレッシャーもなく、サラリーマンのように厳しい上司がいるわけでもなく、自分がすべてを決められる立場にいるからだ。自ら作ったぬるま湯に浸かっているうちに、『怠慢』、『放漫』、『自堕落』、『無知』の種が根を張り、芽を出し、花を咲かせてしまうのだ。中小零細弱小家業の社長さんたちは、基本的に逆境に強い人が多い。だからこそ、経営資源も、ブランド力もない中で、ある程度の成果が出せるわけだ。

独立、開業した時点では、見込みの顧客もおらず、根拠のない成功への自信があるだけといったケースも少なくない。つまり、逆境が基本スタンス。それが中小零細弱小家業の社長さんのスタート地点だ。だから、順風満帆になってきたとき、周囲から『成功したな』と言われるようになったとき、中小零細弱小家業の社長さんは危ない局面に入ったと言える。安定の中でぬるま湯に浸かり、『怠慢』、『放漫』、『自堕落』、『無知』の4大疾病によって、過剰な投資、過剰な調達、個人的な浪費、仕事の邪魔になる色沙汰などを起こし、経営を急激に傾かせていくことが多いのだ」(18ページ)

板坂さんは、「アホ社長は4大疾病を患っている」と挑発的なことを書いておられますが、これは、かつての板坂さんご自身のことのようです。そして、私自身を含め、人間はだれでも慢心してしまうということは、板坂さんのご指摘の通りだと思います。ただ、これも板坂さんもご指摘しておられますが、中小企業経営者、すなわち、いわゆるオーナー経営者は、「自分がすべてを決められる立場」にあるということです。これを言い換えれば、もし、周りの人から見て改善を要するところがあったとしても、それを指摘してもらうことはほとんどないということです。

ひと言でいえば、裸の王様になりやすいということです。これは、私が銀行勤務時の経験ですが、融資取引のある中小企業経営者の方に対しては、相当の注意を払っていました。もちろん、融資取引のある会社は、銀行にとってはお客さまですので、きちんと尊重することは当然です。しかし、さらに、オーナー経営者に対しては、万一、機嫌を損ねるようなことを口に出してしまうと大変なことになるという緊張感をもって接していました。これに対して、オーナー経営者の方の中には、「銀行に対して、それほど気をつかわせているつもりはない」と考えている方もおられると思います。

確かに、フランクにお話しできる経営者の方もいますが、残念ながらそのような経営者は、私の経験では、極めて少数でした。とはいえ、ここまでオーナー経営者に対する批判のようなことを書いてきましたが、私は、オーナー経営者が裸の王様のような状況になりやすい原因は、オーナー経営者だけにあるのではないと思います。オーナー経営者の方の周りにいる部下や銀行職員が、自分の立場を悪くしたくないという思いから、必要以上に気をつかってしまっている可能性もあります。ただ、経営者の方としては、強く意識していなければ、自身が裸の王様になってしまいかねない立場にあると考える方が賢明であると、私は考えています。

これも私の経験ですが、業績が傾いている中小企業に対しては、銀行は融資取引を縮小する方針を出しますが、これは銀行職員からはなかなか伝えにくいものです。ときどき、「銀行は、いきなり、『これ以上融資はできない』と言ってきた」と怒っている中小企業経営者の方にお会いすることがありますが、それは、「突然」ではなく、自社担当の銀行職員が経営者の方に対して、取引縮小方針になっていることを事前に伝えにくかったからかもしれません。

2024/5/10 No.2704