鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

コンサルタント会社主導の改善計画書

[要旨]

荻野屋さんは、銀行からの要請に基づいて、コンサルタント会社の支援を受けて経営改善計画書を提出しました。社長の高見澤さんは、この計画書に不満を感じる面もありましたが、融資支援を継続するためには、キャッシュフローの捻出を最優先させる必要があり、仕方ない面もあります。また、自社の財務状況については、銀行からはどのように評価されているのかといった、客観的な視点でも分析することが望ましいでしょう。


[本文]

今回も、前回に引き続き、荻野屋社長の高見澤志和さんのご著書、「諦めない経営『峠の釜めし』荻野屋の135年」を読んで私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、事業改善活動は、当事者は前向きな活動と考えていても、その成果を客観的な数値で把握できるようにしておかないと、銀行からは不透明でしかなく、評価されないこともあるので、改善活動に関するアカウンタビリティも意識する必要があるということを説明しました。これに続いて、荻野屋さんは、銀行から指定されたコンサルタント会社の主導に基づいて策定した経営改善計画を提出したのですが、高見澤さんは、そのコンサルタント会社や、経営改善計画の内容については不満を感じていたようです。

「2012年9月、荻野屋は金融機関に対し、経営改善計画書を提出した。計画書を提出しないことには、金融機関の支援は得られない。荻野屋に、ほかの選択肢はなかった。今後は、資産を売却して現金を捻出し、返済に回しつつ、毎月の業績報告を行うバンクミーティングを開くことになった。その間も、コンサルタント会社に高い契約料を払い続け、その監視のもとで計画の実行を粛々と進めるという日々となった。経営改善計画では、現場の業務改善の施策は先送りされていた。

そのため、起死回生の商品がすぐに生まれるような状況ではなかった。毎月のバンクミーティングは、毎回、ネガティブなことばかりを伝えざるを得ない。私にとっては、いたたまれない場であった。金融機関の真意がわからないまま、コンサルタント会社主導で策定された計画を粛々と実行しているだけでは、荻野屋はよくならないことは明らかであった。しかし、まずは資産売却を通じて財務体質を健全化すべきという正論や、収益力の向上が見えない現状を指摘されると、経営改善計画に異を唱えることはできなかった。

この一連の出来事が起きた理由は、私の経験不足と知識不足による。入社以来、荻野屋のトップとして活動できたのは、父・忠顕の時代から父を支えてくれた経験豊富な社長室長がいてくれたおかげだった。一緒に会社をよくしようと考えてくれた人物で、彼と一緒にやっていれば、ほとんどの問題はクリアできると思っていた。しかし、企業会計や財務については、私と社長室長の2人の力だけでは十分ではなかった」(167ページ)

私も、中小企業診断士として、ご支援する会社に対しては、前向きな改善活動を提案しているので、高見澤さんの不満は理解できます。その一方で、銀行が、なぜ、「コンサルタント会社」を送り込んで、荻野屋さんを「監視」させているのかという事情についても理解できます。銀行は、融資相手の会社の業績が悪化すると、その会社への融資継続は不可能と判断し、融資の回収手続きを始めることになります。

しかし、もし、事業の改善活動によって、事業を継続できる可能性があるのであれば、事業を継続してもらい、融資を回収することの方が合理的です。ところが、事業を継続できるかどうかは、単に、希望的な観測で判断することは現実的ではありません。そこで、客観性の高い経営改善計画を作成し、さらに、それを確実に遂行してもらう必要があります。その実現性が高いことが分かれば、銀行は、その会社に対し、既存の融資を直ちに回収せず、リスケジュールして確実に回収するという判断をすることができるわけです。

ただし、その経営改善計画は、なかなか、一般の会社には作成できず、また、その遂行管理も銀行には余力がないため、いわゆる「コンサルタント会社」が計画策定の支援をしたり、遂行管理を行なうことになったりするわけです。予断ですが、ある意味、この「コンサルタント会社」は、銀行から融資を続けてもらうための手続きを、銀行の支持にしたがって行っているので、私は厳密にはコンサルティングを行っているとは思いませんが、融資を継続してもらうためには必要な存在です。

また、「コンサルティング会社」への顧問料についても、銀行の指示で動いているのに、融資を受けている会社が払うことはおかしいという疑問を感じる方もいると思いますが、そのことによって最も利益を得ているのは融資を受けている会社ですので、融資を受けている会社が負担することは仕方ないと思います。これについても、高見澤さんが、「まずは資産売却を通じて財務体質を健全化すべきという正論や、収益力の向上が見えない現状を指摘されると、経営改善計画に異を唱えることはできなかった」、「企業会計や財務については、私と社長室長の2人の力だけでは十分ではなかった」と述べておられます。

実は、こういった、自社の財務状況について、銀行を含むステークホルダーに説明するということは、ほとんどの中小企業では意識されることがありません。それは、中小企業の多くは、「社長=オーナー」だからです。そして、銀行は、財務分析、融資審査の専門家として、ある面で、融資相手の会社によりそって分析を行い、融資による支援を行なっているというのが現実です。しかし、会社が上場すると、自社の財務内容について、会社自身が不特定多数の株主に対して説明しなければなりません。

もともと株式会社は、不特定多数の株主から出資を募るという仕組みの組織なので、上場会社のような資金調達を行うことが原則的と言えます。だからといって、直ちに、オーナー会社が自社の財務状況について説明責任を果たさなければならないということは、私も考えていませんが、会社が荻野屋さんのような状態になったとき、中小企業は、銀行などの資金提供者が必要とする情報を、十分に提供する能力をもっていないということを感じることになってしまいます。

これについては、中小企業が、上場会社と同じような情報開示をすることは負担が大きいと考える方もいると思います。私も、中小企業が上場会社と同じようなレベルで情報開示をする必要はないと思いますが、自社の財務状況を正確に把握し、分析できる能力は、銀行のためというよりも、まず、自社にとって有用です。これについては、高見澤さんも「後悔」しておられるとおり、もっと、自社の状況について正確に把握できていれば、「突然」銀行から経営改善計画書の提出を求められるようなことにならなかったと思います。

話を戻すと、中小企業の多くは、経営者の方が独善的になり、自社の事業はうまくいくという前提で活動しがちですが(それも当たり前ではありますが)、銀行などの資金提供者からはどのように評価されているかという点について意識していれば、突然、銀行からの支援方針を変更されるということを防ぐことができ、より、安定的な事業の継続ができるようになるということは明らかです。

2023/4/17 No.2315