[要旨]
会社にはいくつもの課題がありますが、特定の部分だけ注力すると、会社全体のバランスが欠け、事業はなかなか前に進むことができません。したがって、経営者は、会社全体のバランスをとる役割が求められます。
[本文]
前回、経営コンサルタント板坂裕次郎さんのご著書、「日本一わかりやすい『強みの作り方』の教科書」について触れましたが、今回も、もうひとつ、気になる部分があったので、それについて書きます。それは、板坂さんのいう、「スーパーカー理論」です。板坂さんによれば、会社をスーパーカーに例えると、社長がエンジンで、左の前輪は「経済力」、右の前輪は「想い」になるそうです。板坂さんのいう「経済力」とは、文字通りお金のことのようです。
確かに、事業をまわすには、お金は大切ですが、一方で、単に、独善的に、お金を得ることだけに注力していると、左の車輪だけが早く回ることになり、スーパーカーは右にまがってしまうので、前に進むことができなくなるということです。そこで、「想い」が大切になるわけですが、板坂さんのいう「想い」とは、公共性や、顧客の視点、長期的な経営方針ということのようです。すなわち、お金のことばかり気にしすぎると、会社は前進せず、顧客や長期的な視点とのバランスが大切であるということであり、私も板坂さんと同じ考えです。
ところで、私は、別のパターンで、バランスが欠けている会社をたくさん見てきました。具体的には、社長の「想い」ばかりが空回りして、「経済力」がついてこない会社です。これは、社長が実践したい事業を、社長は成功すると信じているために、お金のことはまったく見ないという状態の会社です。(または、社長は、やりたい事業をやることだけが目的で、お金のことは関心がないか、または、会計的な知識がなくて、会計に関する資料を見ることができないという状態の会社もあります)
いずれにしても、私は、会社の経営とはバランスをとることだと思っています。会社の経営資源は限られているので、すべての課題に100点をとることはできません。そこで、どの課題に、どれくらい、人材やお金を投入して、全体として最大の効果を得るかを判断することが、社長の、最も大切な役割だと思います。したがって、社長が注力するのは、特定の部分のスロットルレバーを引くのではなく、全体のバランスがとれるようにすることです。特定の部分だけが進もうとすると、会社というスーパーカーは、真っすぐ前には進まず、なかなかゴールに向かわなくなるのです。