[要旨]
経営コンサルタントの板坂裕治郎さんによれば、厳しい経営環境にあっても事業を継続している会社は、社長の想いを社員に伝えたうえで、一緒に理念を考えてもらった理念があるということです。そうすることで、社員たちは理念に共感し、能動的な活動ができるようになるからということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの板坂裕治郎さんのご著書、「2000人の崖っぷち経営者を再生させた社長の鬼原則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、板坂さんによれば、会社が「全員野球」の事業活動ができるようになるには、社長は「監督」に徹する、すなわち、社長は目標などのゴールを示すだけで、事業現場から身を引いて、現場の部下に判断や活動を委ねるようにしなければ、組織的な活動ができるようにならないということを説明しました。
これに続いて、板坂さんは、厳しい経営環境の下で、事業を継続させていく会社は、従業員の方にいっしょに考えてもらった経営理念を共有しているということについて述べておられます。「厳しい環境下でも残っていく会社に共通しているのは、社長さんの使命と将来に向けた明確なビジョンがあること。そして、『使命』という出発点と『ビジョン』という到達点を結ぶ、『熱い想い=理念』があることだ。私の場合、20代、30代の頃は、自分の儲けのことしか頭になかった。だが、40歳になるまでに、何人もの友達や後輩が、借金を理由に自ら命を絶った。
私は、『もう二度と金で命を落とすヤツの葬式には出たくない』と、強く思った。それが自らの使命となって、今の仕事を始めた。世の中の8割を占める、中小零細弱小家業の、ほとんど勉強もせず、自分のカンと勢いだけで経営しているアホ社長たちを再生させること。それが理念になり、日本全体の底上げにもつながるというビジョンになった。そして、自分自身の熱い想いを見える化した理念を開けっぴろげに公開し、フル回転で走らせている。しかし、私の言う『理念』は、社長1人で作っても、なんの意味もない。社長の想いを社員に聞いてもらい、一緒に考えてもらうことが重要だ。
この会社が、世の中に向けて発信するメッセージとして、理念を文章化していくこと。これができて初めて、会社を動かす乗り物としての理念になっていく。出発点は、社長が自身の命を使ってでも成し遂げたい使命であっても、それを文章化して、共有していかなければ、誰も共感してくれない。中小零細弱小家業を船にたとえるなら、社長さん1人が漕いでいるうちはいいが、そこに『社員』という名の乗組員が乗船してきたら、事情が変わる。『なんで、この船を漕いでいるのか』、『この船は、将来的にどこに向かおうとしているのか』ということを一緒に考え、共有し、共感してもらわなければ、順調な航海をすることはできないのだ」(174ページ)
組織の3要素は、共通目的、貢献意欲、コミュニケーションということはよく知られていますが、意外と、共通目的は意識されていないように、私は感じています。冷静に考えれば、組織は、構成員が共通の目的を達成するためにつくられるわけですが、業績が悪い会社は、何のために仕事をしているのかが明確でなく、そのことが原因で、従業員たちは能動的な活動ができず、効率的な活動ができないのだと思います。
板坂さんは、「社長の想いを社員に聞いてもらい、一緒に考えてもらうことが重要だ」と述べておられますが、これは、共通目的を明確にする活動だと思います。そして、共通目的である「理念」が明確であれば、後から会社に加わってきた従業員たちも、自分が何をすればよいのかを理解しやすいので、直ちに効率的な活動が可能になるのだと思います。しかし、この従業員と共有できる「理念」を明確にすることも、意外と難しい面もあると、私は考えています。
なぜなら、経営者の方が起業する要因は、「世の中の役に立ちたい」という漠然とした想いはあるものの、「自分がやってみたい事業をやりたい」とか、「お金儲けがしたい」というような、自分中心の考え方をしていることが少なくないからです。そのことが直接的に問題ではないのですが、組織的活動は、社長個人の想いを実現するものではないわけですから、板坂さんのように、起業当初は自分のやってみたいことをやることが目的であったとしても、その後、自分の適性をどう活かせるかを考え、従業員の方たちと共有できる理念を作ることは重要だと思います。
2024/5/31 No.2725