[要旨]
財務会計は、生産性を高めるための情報を十分に提供できませんが、それは、財務会計は経営判断のために作成されるものではないからであり、経営判断のためには、さらに管理会計によって情報を集める必要があるということです。例えば、制約理論を提唱したゴールドラットは、スループット会計という新しい会計的なアプローチも提唱しています。
[本文]
イスラエルの物理学者で、経営コンサルタントでもある、エリヤフ・ゴールドラットの著書、「ザ・ゴール-企業の究極の目的とは何か」を読みました。同書のポイントは、制約理論とスループットの2つだと思います。ここでは詳しくは書きませんが、制約理論とは、製品の生産量は、製造工程のうち、最も生産量の少ない工程に制約されるという考え方です。
この、最も生産量の少ない工程のことをボトルネックといい、生産量を増やすには、ボトルネックの生産量を増やすことが最初のステップになります。そして、すべての工程の間に生産量の差が出ないようにしながら、徐々に、すべての工程の生産量を高めていくことで、最も効率的な生産体制が整っていくということになります。
次に、スループットとは、売上高から「真の変動費」を差し引いた残りの金額です。「真の変動費」とは、製品の生産に直接関連する費用のことで、製品を生産してもしなくても発生する費用は含みません。「製品を生産してもしなくても発生する費用」とは、例えば、減価償却費、光熱費、労務費などです。したがって、伝統的な財務会計の原価計算で計上される原価よりも、「真の変動費」は少なくなります。
では、なぜ、「真の変動費」という考え方が必要になるのかというと、スループットを計算しなければならないからです。それでは、なぜ、スループットを計算する必要があるのかというと、制約理論によって生産量を増やした成果を測るためです。すなわち、ボトルネックを解消することで増加する費用が「真の変動費」であり、売上高から「真の変動費」を差し引いた残りであるスループットを最大化することが、制約理論を活用した効率化の目的です。
とはいえ、今回の記事の主旨は、制約理論の説明ではありません。伝統的な財務会計には限界があるということです。これは、ゴールドラットが、著書の中で何度も指摘しています。具体的には、財務会計では、製品原価と棚卸資産の額しか把握できません。そこで、生産性を高めの活動については、原価を下げることと、棚卸資産を減らすことしか導き出すことはできません。さらに、原価を下げるには、生産量を増やすという方法もあり、これは、棚卸資産を増やすことになるので、財務会計では精度の高い改善策を出すことができません。
これに対して、制約理論では、生産工程の全体最適を目指すという観点から、より適切な改善策を導くことができます。では、財務会計は役に立たなのかというと、そうではありません。財務会計は、本来は業績を株主や銀行に報告することが主な目的であり、経営判断のための会計ではないからです。経営判断のための会計として管理会計があるのであり、制約理論のアプローチで生産性を向上するためには、スループット会計を活用すればよいのです。
ここまで書いてきたことをまとめると、財務会計は、生産性を高めるための情報を十分に提供できませんが、それは、財務会計は経営判断のために作成されるものではないからであり、経営判断のためには、さらに管理会計によって情報を集める必要があるということです。そして、財務会計が経営判断に十分な情報を提供できないことは、当然のことながら、財務会計を消極的に評価する要因ではありません。
ゴールドラットは、制約理論の考え方から、生産工程の全体最適を実現し、生産性を高めることを著書を通して提唱し、それと同時に、スループット会計という新しい会計的なアプローチも提唱しました。繰り返しになりますが、これは、財務会計を消極的に評価しているのではなく、生産性を高めるには、財務会計に加えて管理会計を導入することで、さらに精緻な会計情報を収集する必要があるということです。
2026/3/12 No.3375
