鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

中小企業の社長は『すごい存在』

[要旨]

中小企業の社長は、(1)従業員と家族の生活を背負っている、(2)営業、経理、総務、製造、仕入など、会社のすべてのことに関わらなければならない、(3)365日24時間、会社の代表という立場でいなければならないなど、「すごい存在」といえます。したがって、中小企業の社長はもっと評価されるべきであり、また、中小企業の社長になろうとする場合は、それなりの準備と覚悟が必要になります。


[本文]

今回は、中小企業診断士の渡辺信也先生のご著書、「おたく以外にも業者ならいくらでもいるんだよ。…と言われたら-社長が無理と我慢をやめて成功を引き寄せる法則22」を拝読し、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。渡辺先生は、社長というポジションに就いている人は、大企業だけでなく、中小企業でもすごい存在だということを述べておられます。

「社長がすごい存在である理由の1つ目は、自分の家族、社員、社員の家族、取引先を背負っていることです。万が一、倒産をしてしまったら、みんなが生活を失ってしまうこともあります。その責任を背負っている大切な存在なのです。2つ目に、営業、経理、総務、製造、仕入先との交渉、社員のこと、銀行との折衝、トラブル処理まで会社にかかる全部のことに対応していかなくてはならない立場だということです。会社の規模が大きければ、責任者に任せるということができますが、小さな会社の社長ほど、社長が全部やらないと回らない事実があります。(中略)

3つ目に、365日24時間、会社の代表という立場でいることです。寝ても覚めても、旅行中でも、冠婚葬祭でも、どんなときでも社長は社長の立場で、緊急時には駆けつけます。気が休まることはありません。逃げたくても逃げられない、正面から受け止めていくという仕事です。どんな困難でも受け止め、責任を果たし、世の中に貢献する立場です。とても誇らしいことです。私は、中小企業の社長が輝けば、日本はよくなると思っています」(22ページ)

私は、かつて、地方銀行で働いていましたが、融資相手の会社の社長さんたちを見て、渡辺先生と同様のことを考えていました。例えば、銀行職員は、あくまで銀行の従業員なので、故意に規則を破ったり、余程の大きなミスをしなければ、失敗をしても会社に守ってもらえます。また、終業時刻を過ぎて会社を出た後や休日のときは、「●●銀行職員」という肩書が外れて自由に行動できます。(とはいえ、もし、悪いことをして新聞に載ったりしたときは、「●●銀行の職員が…」などと新聞に書かれてしまいますが、それはレアケースです)

一方、中小企業であっても経営者の方は、自分だけでなく、従業員とその家族、場合によっては、仕入先の会社と、その従業員や家族の生活まで背負っています。そして、そのプレッシャーは、仕事をしているときだけでなく、休日のときでも外すことはできません。私だったら、そのプレッシャーに耐えることはできないと思っていました。事実、先日、鬼籍に入った、イトーヨーカドー創業者の伊藤雅敏さんは、同社が倒産する夢を見て夜中に目が覚めたことが何度もあったそうです。

また、昨年8月に亡くなった、京セラ創業者の稲盛和夫さんも、京セラの黎明期は、銀行から借りた融資金を返済できなくなって、会社が倒産してしまわないか、毎日、心労をしていたと言います。ただ、中小企業経営者の方の中には、このようなプレッシャーを、あまり苦痛と感じていないような感じの方もいましたが、やはり、多くの中小企業経営者の方は、ずっとプレッシャーに立ち向かいながら仕事をしていると思います。

では、今回、なぜ、中小企業経営者の方はすごい存在であるという、渡辺先生の考えをご紹介したのかというと、ひとつは、中小企業経営者の方は、もっと、社会的な評価を受けるべきだと考えているからです。もちろん、いまも評価を受けていないわけではありませんが、2022年版中小企業白書によれば、日本の会社員の約70%は中小企業勤務であり、また、中小企業が産み出している付加価値は、日本全体の53%を占めているということを考えると、もっと評価を受けてよいのではないかと思います。

そして、ふたつめの理由は、中小企業経営者は、渡辺先生もご指摘しておられるように、「会社にかかる全部のことに対応していかなくてはならない」ということです。実は、私が中小企業の事業の改善をお手伝いしてきた経験から感じることは、業績があまりよくない会社の特徴は、経営者の方が、「会社にかかる全部のことに対応」できない場合が大きいと感じているということです。これは当然のことと感じられると思いますが、社長は社長の仕事が中心になるので、例えば、工務店を始めた会社の社長は、家を建てる仕事よりも、販売先を探したり、銀行に融資の依頼をしたり、業績を管理したりする仕事を中心にしなければなりません。

ところが、事業現場の仕事を中心にしてしまう社長は、売上が思うように伸びなかったり、決算を過ぎてから事業が赤字になっていることに気づいたりするということがあります。ですから、社長は会社全般に関わらなければ、会社を設立しても事業がうまく行かないということを理解しないまま起業してしまうと、せっかく経営者になっても、それが無意味になってしまうことになりかねません。

2023/3/25 No.2292