鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

株式会社のオーナーは株主

[要旨]

株式会社は、不特定多数の人から出資をしてもらい、また、銀行から融資を受けて事業を行う仕組みであり、特に、株主は会社の議決権を持つオーナーでもあることから、株主の視点で事業の収支状況を把握し、適宜、報告できるようにすることが、安定的に資金の提供を受け、事業を発展させていくために大切です。


[本文]

公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を拝読しました。同書で、金子さんは、株式会社の目的についてご説明しておられます。「会計を理解するうえで明確にしておくベき大前提があります。それは、会社は基本的に人様のお金でビジネスをやっているということです。よく言われるように、会社の目的は利潤の追求です。要するに、お金儲けが目的ということです。お金儲けをしようと思ったとき、最も単純な発想は、お金儲けをしようと思った人が元手資金をすベて用意し、全責任を自分で負って好きなように経営し、儲かったならそれは全部自分の懷に入れるということでしょう。

元手資金の出し手も、その資金の管理(=経営)もすベて自分でやるという、この形態の会社は、合名会社や合資会社と呼ばれるものです。合名会社や合資会社は、お金儲けの手段としては、実は最も素直な発想に基づく会社形態ですが、現在においてはこの形態の会社はほとんど見られません。創業者(=お金儲けしたい人)やその関係者など、数人が出せる資金の額など高が知れているため、小規模なビジネスしかできないからです。そこで考え出された仕組みが、株式会社という形態です。株式会社では所有と経営を分離します。すなわち、資金の出し手(=所有者)と、そのお金の運営(=経営)を分離するのです。こうすれば不特定多数の人から資金を集めることが可能になるので、極端な話、1人1円しか出さなくても、それを1億人から集めれば1億円の資金調達が可能になるわけです。

ちりも積もればもれば山となる方式です。それでも足りなければ銀行の出番です。このように、現代の株式会社は、経営に直接関わらない多くの株主と銀行という、人様のお金でビジネスをやらせてもらっているのです。このことは、会計の目的に深く関係します。先ほど、会計の目的は儲かったかどうかを知ることだと言いました。その『儲かった』とは誰の目線で言っているのかということです。会社で働いている人の多くは、とかく一人称を自分や会社にして考えがちです。しかし、株式会社のオーナーは株主です。『儲かった』というのも、基本的に株主目線で見ているということはちょっと重要です」(18ページ)

詳細な説明は割愛しますが、日本の中小企業の多くは、株主は社長1人か、社長とその家族だけが所有している、いわゆるオーナー会社です。とはいえ、多くのオーナー会社は、設立したときの出資金だけでは、事業活動に必要な資金が不足するので、銀行から融資を受けます。そこで、私は、日本のオーナー会社に融資している銀行は、株主に近い役割を果たしていると考えています。確かに、銀行の中には、融資している会社の業況が悪化すると、融資を引き上げるということがあります。しかし、日本には、「メインバンク制度」という慣行があり、業況を悪化した中小企業に対し、メインバンクが、資金面だけでなく、取引先を紹介したり、職員を派遣したりするなどの多面的な支援を行っています。

こう考えると、日本の銀行は、単に、中小企業の融資に応じているだけでなく、融資相手の会社の経営に関与しているという役割から鑑みると、株主に近い役割があると言えるでしょう。話を本題に戻すと、「株式会社のオーナーは株主」ということは、知識として理解してはいても、実際にそれを前提に会計の記録をしている中小企業は少ないと私は感じています。そのあらわれの一つは、金子さんがご指摘しておられるように、「会社で働いている人の多くは、とかく一人称を自分や会社にして考えがち」ということです。

これは、具体的には、経営者や従業員が、経営している会社、または、勤務している会社を「ウチの会社」と言うことを指していると思いますが、それは、厳密には正しくないということです。(経営者や従業員が、経営している会社、または、勤務している会社の株式を所有していて、株主の立場で「ウチの会社」と言うことはできますが、経営者や従業員が株主の立場として意見を言う機会は株主総会のときくらいでしょうから、普段、経営者や従業員が「ウチの会社」という時は、経営者、または、従業員の立場で言っていると言えると考えられます)

しかし、経営者や従業員も、事業活動の当事者であるので、経営している、または、勤務している会社を「ウチの会社」と呼んでも、決して間違っているとは思いません。ただ、事業活動の当事者は、経営者や従業員だけでなく、株主、銀行、仕入先、顧客も含まれているということを忘れてはいけないということです。ところが、経営者と従業員以外のステークホルダーは、経営者と従業員と比較して、事業活動に関わる時間で差があるので、業績に関する情報量には圧倒的に差があります。そこで、「会計」に関する情報が必要になります。特に、株主と銀行に対しては、資金の提供者であるわけですから、自社の事業活動がもうかっているのかどうかをきちんと伝えなければなりません。

ここまで説明してきたことは、至極当然のことであり、ほとんどの方は容易にご理解されると思うのですが、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、「銀行に、たびたび、業績を報告することは面倒だ」、「銀行はあまり自社に対して質問をせずに融資をして欲しい」と考えている経営者の方は少なくないということです。そこで、繰り返しになりますが、事業活動の当事者は、経営者や従業員だけではなく、株主や銀行も含まれており、継続して協力を得ることができるよう、情報を提供できる体制を整えておくことが安定した事業展開のために欠かせないということを理解しなければなりません。

2025/4/3 No.3032