鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

人に貸すのではなく事業に貸す

[要旨]

令和4年12月に、金融庁は、「経営者保証改革プログラム」を公表し、「経営者保証に依存しない融資慣行の確立」を目指しています。しかし、これは、銀行だけの努力で実現するものではなく、中小企業も、公私混同をなくしたり、適切な情報開示を行なったりするなどの努力が必要です。


[本文]

先日、東京商工リサーチ情報部の増田和史さんが、経営者保証に関する記事を、ダイヤモンドオンラインに寄稿しておられました。記事の要旨は、東京商工リサーチが実施した破産企業の追跡調査(2020年度)では、破産会社の経営者の68.25%が個人破産に追い込まれているが、こうした現実が、起業や積極経営を躊躇せ、一方では事業再生や再チャレンジ、次の世代への事業承継の機会を奪い、傷が浅いうちの廃業も難しくしていた。

一方で、都内を中心に数店舗のカフェを展開していたA社が、コロナ禍で経営不振が続き、ついに2022年11月に破産を申請したが、A社が裁判所に提出した「破産申立書」の資産目録には、車輌運搬具として、簿価約2,000万円が計上されていた。その内訳は、海外の高級スポーツカーが1台で、保管場所は社長の自宅駐車場、鍵は社長が所持と記載されており、少なくとも破産を申請するまで、A社所有の高級車を社長が日常的に「自分のもの」として乗り回していたことは想像に難くない。

このように、経営者が公私混同することはしばしば見られるが、逆に、経営が苦しくなると、経営者が所有する資産(自宅不動産など)を担保に会社が融資を受けたり、会社が経営者から運転資金などを借りる「代表者借入金」などが存在したりする。したがって、今後、経営者保証を求めない取り組みが加速すると、企業は事業性や事業価値がよりシビアに問われることになり、経営者の会社に対する考え方や向き合い方も大きく変わらざるを得ない、というものです。私も、増田さんのご指摘は的確だと思います。

特に、認識を間違ってはならないことは、経営者保証を求めない融資というのは、銀行が中小企業に融資をするときに、従来の融資条件は変えずに、銀行が経営者からの保証を求めないようにするということではないということです。では、経営者保証を求めない融資というのはどういう融資かというと、経営者保証ガイドラインに則った融資のことです。この経営者保証ガイドラインに則った融資とは、中小企業が会社と経営者の資産の分離、財務基盤の強化、適切な情報開示を図ったときに、銀行は経営者保証を求めないというものです。

話を増田さんの記事に戻すと、今までの日本の銀行の融資慣行は、「事業に貸すのではなく、人(経営者)に貸す」というものであり、これからは、銀行も中小企業も、そのような認識を変えなければならないと増田さんはご指摘しておられます。このように書くと、「融資をするのは銀行なのだから、銀行が認識を変えればよい」と、中小企業経営者の方は考えるかもしれません。でも、現実には、「会社の利益はあまり多くない(または、会社の業績は赤字)かもしれないけれど、私の『顔』で融資をして欲しい」と、銀行に融資を依頼をする経営者の方は、決して少なくありません。

そこで、社長の顔(=社長の信用)で融資をすることになると、社長に保証人になってもらうということになります。ですから、社長の顔を使わずに融資を受けられるようにするには、融資を受けようとする会社は、「事業」で評価されるようにしなければなりません。そのためには、少なくとも、月次決算やセグメント情報など、会社の詳しい事業内容が分かるような財務データを銀行に提出する必要があります。少なくとも、経営者保証を条件としない融資は、融資を受ける側の努力なしには応じてもらうことはできないということです。

2023/3/24 No.2291