[要旨]
経営コンサルタントの板坂裕治郎さんによれば、「儲かっている会社は、仕事をする前にお金をいただき、貧乏会社は仕事をしてからお金をいただいている」そうです。これは、手元資金に余裕のある会社は、経営者の方が事業活動を俯瞰することができるようになり、より適切な判断ができるようになるからと考えられます。
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今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの板坂裕治郎さんのご著書、「2000人の崖っぷち経営者を再生させた社長の鬼原則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中小企業経営者の方はポテンシャルが高いにもかかわらず、自分がすべてを決められる立場にいるために、慢心してしまいやすく、その結果、会社の事業を悪化させることになるので、相当の注意を払うことが求められるということを説明しました。
これに続いて、板坂さんは、資金繰に余裕を持つことが大切ということについて述べておられます。「会社を維持し、成長させていくためには、栄養素となる『お金』が不可欠だ。これまで数多くの会社の社長さんと話をしてきて、私は、ある原則に気がついた。『儲かっている会社は、仕事をする前にお金をいただき、貧乏会社は仕事をしてからお金をいただいている』。
この差は小さいように思えて、決定的な違いを作り出す。商売に対して余裕を持って臨んでいる会社は、お客さんのこと、商品のこと、スタッフのこと、事業の展望など、現在から未来までをじっくりと見据えて行動できる。そこには、お金に振り回されている忙しさなど、まったく感じられない。『ここだ!』というタイミングが巡ってきたら、『パシッ!』とお金を使い、商機を掴んでしまう。
一方、貧乏会社の社長は、いつも、今、この瞬間のお金に追われている。未来のことを考えたいとは思っても、余裕がない。『ここだ!』という商機を見出す力があっても、資金繰りが間に合わず、タイミングを逃してしまう。つまり、常に手持ちのお金が十分にあることが、チャンスを掴み取れる会社と、そうでない会社とを分けるのだ。貧乏会社の社長の多くは、その仕事が好きで人一倍働いている。
その頑張りは、儲かっている会社の社長と変わらない。ところが、働いても、働いても、経営は毎月ギリギリの状態で、ちょっとでも売上が悪化すると、すぐに支払いに支障をきたし、銀行から借り入れでもしないと商売が回っていかなくなる。私がいちばん得意としている中小零細弱小家業の社長さんは、ほぼ、このパターンにはまっているが、抜け出せない。なぜなら、彼らはその仕事が好きでがんばっているだけだからだ」(37ページ)
私も、中小企業経営者の方から資金繰のご相談を受けていると、しばしば、「銀行が融資をしてくれれば、ビジネスチャンスを逃さずにすむのに、融資をしてくれないからチャンスを逃し、ますます業績が悪化してしまう」ということをききます。しかし、銀行は、融資相手の会社がビジネスチャンスを掴めそうだというときは、原則、積極的に融資を行います。
ところが、融資を申し込んできた会社が、(1)債務超過の状態である、(2)社長はビジネスチャンスであると説明していても、採算が得られることを根拠を持って説明できない、(3)会社の経理処理が不正確であったり、厳格性に欠けていたりするため、新しい融資をしたときにトレースが困難と考えられる、というような場合は、銀行は融資に消極的になります。要は、財務管理がきちんとできていなければ、銀行からの協力が得られにくくなっているということです。
これに対して、中小企業経営者の方は、銀行はもっと中小企業に寄り添うべきではないかと不満を感じるかもしれません。そのような考えももっともなのですが、銀行も、現実的に職員数を減らさなければならない状況にあるため、融資を受ける側としても、それを踏まえた対応を取らざるをえなくなってきています。
さらに、融資申請手続きや、資金繰の安定化に関し、銀行に依存的になると、自主的な事業活動の支障になり、このこと自体がビジネスチャンスを逃すことにつながります。かつては、中小企業経営者は、事業の現場に専念していればよかったという時代もありましたが、経済活動が成熟し、また、競争が激化してきた現在は、経営者自らが管理活動にも注力しなければならなくなってきていると、私は考えています。
2024/5/11 No.2705