鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

株主の代わりに銀行に意見をきく

[要旨]

オーナー会社は、経営方針の一貫性があるという面で優れていますが、その一方で、経営者が独善的になってしまうという危険性もあります。そこで、適宜、銀行に自社を評価してもらうなど、独善的にならないような対策をとることが大切です。


[本文]

先日、大手家電メーカーのT社の社長のK氏が、社長を辞任しました。(ご参考→ https://bit.ly/3xmSHY9 )表向きは再上場という目的が達成されたということが理由のようですが、わずか1年で辞任した背景には、T社に対して買収提案をしてきた投資ファンドとK氏の関係が不透明という批判が、他の経営者から出ていたからのようです。こういう面から見ると、大きな会社の社長は、その座に居続けるということは、容易なことではないということを実感します。(実際に、T社の社長を解任させるためには、本当は、複雑な手続きが必要なのですが、ここではその説明は割愛します)

いっぽう、一般的な中小企業のオーナー会社では、「業績悪化」、「実行した戦略の失敗」といった理由で、社長が交代するということは、まず、ありません。なぜなら、社長(≒取締役)を解任できるのは株主ですが、オーナー会社では、社長=株主なので、社長以外には、社長を解任する人はいません。

とはいえ、社長が社長を辞めたいと思ったとしても、交代してくれる人がいないという事情もあるという面もあります。こういった面からは、オーナー会社の多くは、実態は、「個人商店」の状態であるといえるでしょう。だからといって、私は、オーナー会社であることや、個人商店であることが、決して問題であるとは考えていません。大きな会社であっても、社長が数年で交代するような場合、10年以上、同じ人が社長を務める中小企業と比較して、一貫性の面で劣ることがあると私は考えています。

例えば、「年輪経営」で有名な、伊那食品工業の塚越寛さんは、1958年から社長代行を、1983年から社長をお務めになり、2003年に会長になるまで、長年にわたって同社のトップとして、バブルに踊らされることなく、一貫した方針を貫いてこられました。しかし、やはり、オーナー会社の社長は、独善的になってしまうということは避けられないということも事実だと思います。業績が悪くなり、いわゆる「ゾンビ会社」の状態になっても、社長が変わらないでいることが多いというのは、その一例でしょう。

したがって、オーナー会社の社長は、自分に諫言してくれる人を見つけておくことが大切だと思います。では、具体的にどうすればよいのかというと、私は、銀行に株主の代わりに意見を述べてもらうことだと思います。確かに、銀行が必ずしも正しい意見を述べるとは限りませんので「銀行の意見を聞かせて欲しい」とは言わずに、「弊社の財務状況を、貴行はどう分析しますか」ときくとよいと思います。

財務状況は、自社の顧客の、自社に対する評価であり、銀行にそれを分析してもらえば、それは、決して銀行だけの意見ということではなくなるでしょう。確かに、自社の評価を、銀行などの部外者にきくことは、経営者としてはつらいことだと思いますが、いろいろな意見を聞くことが、自社の発展につながると考えることで、それだけの価値は十分に得られると思います。ちなみに、銀行は、そのような姿勢をとる会社に対しては、融資相手として評価を得られることにもなるでしょう。

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