鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

マーケティングと差別化は一貫性が重要

[要旨]

中小企業診断士の佐藤義典さんによれば、マーケティングの4Pは、4Pの一貫性だけでなく、差別化戦略とも一貫性が求められるということです。例えば、デルのパソコンは価格で訴求するために、インターネットで販売を行い、デザインを重視するiMacはメッセージ性の強い広告を出し、機能の高いLet’s Noteは口コミや紹介で顧客を獲得しているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、中小企業診断士の佐藤義典さんのご著書、「ドリルを売るには穴を売れ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、佐藤さんによれば、製品が売れるかどうかは、ベネフィットだけでなく、マーケティングの4Pの一貫性も重要だと言うことについて説明しました。これに続いて、佐藤さんは、マーケティングの4Pは差別化戦略との一貫性も重要であるちうことについて述べておられます。

「4Pの間での一貫性も重要だが、さらに重要なことは、差別化戦略との一貫性だ。第3章で、差別化戦略には『手軽軸』、『商品軸』、『密着軸』の3つがあることを説明した。4Pも、この3つの差別化軸によって全く異なる。具体的に、多くの人にわかりやすい、パソコンの例を使って説明していこう。手軽軸で差別化する典型例であるデルの場合、顧客ターゲットはパソコンマニアというより価格を重視する個人や法人だ。特に、法人は価格に対して厳しい。

デルは自社では部品を作らず組み立て(アセンプリ)を行うが、その際には安く調達できる汎用品を使う。そして大量販売を狙って、新聞や雜誌に大量の広告を載せる。新聞はもちろん、今では少年向けの漫画雑誌にまで広告を載せている。デルの広告は、4Pで説明したレスポンス広告の見本だ。販路は、店舗や人が不要なインターネット。そして、価格はとにかく安くしている。このように、4Pを通じてデルは手軽軸戦略を徹底している。

それに対して、商品軸で差別化しているのがアップルだ。少し前のiMacや現在のiPodが典型例で、ターゲットはデザインを気にする先端層だ。わたしもiPodユーザーだが、持っていて気持ちよいくらいに美しい。パッケージも、他社が武骨な工業製品というテイストであるのに対して高級時計のようだった。広告も商品説明よりはメッセージ性の強いもので、他社にはマネできない割り切り方だった。販路はアップルストアと量販店だが、定価販売で売られていることが多い。

密着軸で差別化するのが、パナソニックのノートパソコン『Let’s Note』のような製品だ。製品にはかゆいところに手が届く、さまざまな細かい配慮がされている。広告・販促は普通に行うが、おそらくは口コミでの紹介やリピートが多いと思われる。販路・チャネルは量販店だが、パナソニックのオンライン直販店で買うと天板の色が変えられて『自分だけの一品』にできる。価格帯はノートパソコンの中では最高に近い。このように、パソコンという一見同じような製品でも、3つの軸で一貫性を持てば差別化できるものなのだ。

この軸が中途半端になると、デルにも、アップルにも、パナソニックにも勝てない、ということになる。なぜなら、この3つの軸が顧客が求める価値の軸であり、それぞれにその価値を求める顧客がいるからだ。マーケティングに売れる売れないはあっても、良い悪いはあまりない。しかし、今まで説明してきたベネフィット(顧客にとっての価値)、ターゲット顧客、差別化戦略、4Pに一貫性があることは、良いマーケティングの必要条件だ。

そしてそれこそが戦略的なマーケティングであり、顧客ターゲット戦略、差別化戦略が4Pという戦術を通じて実現され、結果として戦略から戦術までの一貫性がとれるのだ。言うのは簡単だが、これを実行するのはそれほど簡単ではない。このような単純なことにこそ真実があり、その単純なことをきっちりと行うことに難しさがあるのだ」(164ページ)

佐藤さんは、「ベネフィット、ターゲット顧客、差別化戦略、4Pに一貫性があることは、良いマーケティングの必要条件だ」と述べておられますが、このことは、詳しい説明がなくても、容易に理解できる指摘だと思います。それと同時に、佐藤さんは、「このような単純なことにこそ真実があり、その単純なことをきっちりと行うことに難しさがある」ともご指摘しておられます。

すなわち、「良いマーケティング」とは、ベネフィット、ターゲット顧客、差別化戦略、4Pに一貫性を持たせるという、ある意味、単純なことなのですが、それにもかかわらず、一貫性のある活動をすることが容易でないことが容易ではないことが現実のようです。では、なぜ一貫性を持たせることが難しいのかというと、ベネフィット、ターゲット顧客、差別化戦略、4Pと、一貫性の対象とする範囲が多いからだと思います。

以前、紹介しましたが、佐藤さんは、本書の48ページで、「マーケティングとは、顧客にとっての価値に関連するすベてのことであり、作る人、売る人すベてを含んだ全社員の仕事なのだ」と述べておられますが、全社員で一貫性のある行動をしなければならないということも、この難しさを別の面から表現したものと思います。ですから、経営者の方は、まず、マーケティングの前に、会社組織の足並みを揃えるための働きかけをすることが必要になると言えます。

それから、佐藤さんは言及していませんが、ベネフィット、ターゲット顧客、差別化戦略、4Pに対して一貫性のある活動をすることは、ブランドの効果を高めることになると思います。ブランドは、ブランドの研究者のデューン・ナップが「顧客や生活者に認識された情緒的・機能的ベネフィットがもたらす印象の蓄積が、『こころの眼』の中でとんがった位置づけを占めること」と定義しています。私は、これをわかりやすく言い換えると、「顧客が、ある製品を優位なものとして記憶する手段」と考えています。

そして、一貫性のある活動は、佐藤さんが事例に挙げたパソコンにあてはめると、デルはコストパフォーマンスの高いパソコン、iMacはスタイリッシュなパソコン、Let’s Noteは使いやすいパソコンというブランドの効果を高めることになっていると私は考えています。一貫性のある活動は、ブランドの効果を高めることを直接的に目的にしてはいないと思いますが、自社製品の優位性を標的顧客に記憶させることになるので、結果としてブランドの効果を高めることになるのでしょう。

2025/8/9 No.3160