[要旨]
中小企業診断士の佐藤義典さんによれば、差別化戦略には、「手軽にすませたい」というベネフィットに応じる「手軽軸」、「良い商品やサービス」で差別化をする「商品軸」、顧客に密着する「密着軸」の3つがあるということです。
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今回も、前回に引き続き、中小企業診断士の佐藤義典さんのご著書、「ドリルを売るには穴を売れ」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、佐藤さんによれば、ハンバーガー市場に占めるマクドナルドの市場占有率は約70%ですが、同社は、牛丼店、立ち食いそば店、弁当店、コンビニエンスストアとも競合しており、価格競争に陥りやすくなっているため、価格以外の差別化を行うことが大切ということについて説明しました。
これに続いて、佐藤さんは、3つの差別化戦略について述べておられます。「差別化戦略のひとつ目は、わたしが『手軽軸』と呼ぶものだ。その名の通り、『手軽にすませたい』というベネフィットを求めている顧客を狙った差別化戦略である。手軽ということは、安くて早く便利に、というものになる。夕食を決める気分でいえば、『早く安く、近いところで手軽に』というときだ。手軽なだけに、品質は最高ではないがそこそこ満足いく。『安くて早くてそこそこうまい』ファストフードは、まさにこのベネフィットを提供している。
ふたつ目の差別化戦略は、わたしが『商品軸』と呼ぶものだ。これもその名の通り、『良い商品やサービス』で差別化するもので、『とにかく良いもの』を求めている顧客を狙った戦略だ。夕食を決める気分でいえぱ、『ゴージャスに、おいしいものを』、『サービスのしっかりしている、良い雰囲気のところで』というときだ。高級フレンチレストランなどがこの戦略をとる。材料も高級なもので店作りもしっかりしているだけに、当然早くも安くもない。しかしおいしい。
3つ目の差別化戦略は、わたしが『密着軸』と呼ぶものだ。顧客に『密着』することで差別化する。夕食を決める気分で言えば、まさに『いつもの店』というときだ。自分のみをよく知っていて味つけを調整してくれるような飲み屋や、默っていても自分の好み通りに握ってくれる寿司屋などだ。早くも安くもないし、最高にうまい店でもない。しかし、自分のこと、自分の好みを知ってくれている。
例として、ノートパソコンという製品についてみてみよう。安くて品質がしっかりしたものを、宅配で便利に提供するデルが手軽軸の代表だ。薄型ノートなど、最新技術を惜しみなく投入した製品を真っ先に提供するソニーが商品軸の代表。『れっつらー』とも呼ばれる熱狂的ファンを抱え、そのニーズに応える密着軸の製品を作るのがパナソニックだ。
次にスーツ店で考えると、ツープライススーツなど価格勝負で大量出店するチェーン店が手軽軸だ。イタリアの生地、縫製でデザイン性の高さと質の良さで勝負する専門店が商品軸。顧客の好みを把握し、ある願客が好みそうなスーツを仕入れたら、手書きのDMを送って良好な関係を築くような店が密着軸だ。逆に、ある業界でどこかの軸がぼっかり抜けていたら、それは新規参入のチャンスだといえる。例えば、焼き肉のチェーンの牛角がそうだ。それまで、『手軽に食ベられて結構おいしい』という、手軽軸の焼き肉店というのはあまり存在しなかった。そこに、チェーン化して一気に参入して成功したわけだ」(113ページ)
佐藤さんが述べておられる、3つの差別化戦略は、佐藤さんが独自に考えてたもののようですが、このように考えることは有用であると私も考えています。一方、問題だと思うことは、自社の製品を差別化したいと考えつつ、どのような差別化を行うのか明確にせずに、労力をかけるだけで終わってしまったり、単に、価格だけで競争してしまうことです。これでは、差別化への取り組みの効果を得ることはできないでしょう。したがって、自社製品をどようのうに差別化すべきか、外部環境(競合相手や顧客のニーズ)や、内部環境(自社の得意分野など)を分析した上で、差別化戦略を定めることが大切と言えます。
ちなみに、米国の経営学者のマイケル・ポーターは、「3つの競争戦略」を提唱しています。3つの競争戦略とは、コストリーダーシップ戦略(価格で優位性を発揮する戦略)、差別化戦略(製品の特異性で優位性を発揮する戦略)、集中戦略(特定のセグメントでコストや特異性で優位性を発揮する戦略)のことです。完全に重なるわけではありませんが、佐藤さんの提唱する手軽軸はコストリーダーシップ戦略に、商品軸は差別化戦略に、密着軸は集中戦略に対応しているように感じます。そして、私は、経営資源が比較的少ない中小企業は、密着軸、または、集中戦略に基づいて、自社の製品の差別化を図ることが適切だと考えています。
2025/8/4 No.3155
