鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ベネフィットとマーケティング

[要旨]

中小企業診断士の佐藤義典さんによれば、ドリルを購入した顧客はドリルが欲しいのではなく、壁の穴、すなわち、ベネフィットを購入しているのであり、このベネフィットが価値であるということです。そして、マーケティングとは、この価値のやりとりを指すということです。


[本文]

中小企業診断士の佐藤義典さんのご著書、「ドリルを売るには穴を売れ」を拝読しました。同書で、佐藤さんは、マーケティングとは顧客にベネフィットを提供することだということについて述べておられます。「マーケティングの基本4理論のひとつめは、『ベネフィット』だ。本書ではあまりカタカナを使いたくはないのだが、一般的によく使われる言葉なので知っておいたほうがいいだろう。ベネフィットとは、『顧客にとっての価値』だ。

あなたが工具のドリルを売っているとする。あなたにとっての売り物はドリルだが、顧客にとっては、ドリル自体ではなくドリルが開ける『穴』に価値があるのだ。この『穴』がベネフィットということになる。顧客は『ドリル』を買っているわけではなく、『穴を開ける道具』を買っているのであり、あなたはドリルではなく『穴を開ける道具』を売っている。これは、買い手にとっては当たり前のことだが、ほとんどの人は売り手になった瞬間に忘れてしまう。

マーケティングに特殊な理論は存在しない。あなたが買い手であるときにはすベて知っていることであり、その当たり前のことを体系化したのが『マーケティング』なのだ。『ベネフィット』を4つの理論のトップに持ってきたのは、これがマーケティングにおいて最も重要な考えだからである。マーケティングとは、本質的には『顧客にとっての価値』を売り、その対価として、顧客からお金をいただくことだ。こどで少々戻って、『マーケティングとは何か』ということを確認しておきたい。

マーケティングとは、少々学問的に言えば、『価値のやりとり』だ。売り手が、製品・サービスなどを通して買い手である顧客に価値を提供する。ドリルで言えば『穴を開ける』という価値を提供する。顧客は、お金などを売り手に支払ってドリルを手に入れ、穴を開ける。マーケティングにおいては、このことが一番重要である。どんなに難解なマーケティングの本に書いてある知識や技術、テクニック論も個別具体論であり、この『価値』がマーケティングの中心概念だと覚えておこう」(44ページ)

佐藤さんが強調している「ベネフィット」は、今は広く知られるようになっていますので、詳しい説明は不要だと思います。このベネフィットは、米国の経済学者のレビットが、彼の著書、「マーケティング発想法」の中で、「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなく、穴である」述べたことから、ドリルの穴がベネフィットの代名詞のように知られるようになったようです。そして、佐藤さんは、「ベネフィット=価値」と説明しておられますが、現在は、このように考えることは、ほぼ、問題はないものの、必ずしもベネフィット=価値とは限らないこともあります。

例えば、コンビニエンスストアなどで販売されているビニール傘は、顧客が、外出先で急に雨が降ってきたので、傘が必要になり、購入するということがほとんどでしょう。まさに、傘そのものに価値があると考えることができます。ただ、前述したように、このような商品そのものが価値と捉えられるものは少なくなりつつあるので、現在は、ベネフィット=価値と理解することが妥当だと思います。次に、マーケティングについてですが、佐藤さんは価値のやりとりと述べておられます。

私は、これが100%正しいとは考えていませんが、このように理解することに支障はないと思います。ちなみに、公益社団法人日本マーケティング協会は、マーケティングを、「顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセス」と定義しています。

これは定義なので、間違っているかどうかを議論するものではないのですが、あまり実用的ではないと思っています。また、マーケティングの定義で有名なものは、ドラッカーの、「マーケティングの目的は販売活動を不要にすることである(The aim of marketing is to selling superfluous)」というものです。これが正しいかどうかは別として、マーケティングの機能をイメージしやすい定義だと私は考えています。

ちなみに、僭越ですが、私は、マーケティングを、「売れるしくみをつくる活動」と理解するようお薦めしています。中小企業では、このように捉えることで、まず、問題はないと思います。ただ、ご注意いただきたいのですが、マーケティングは、販売活動(いわゆる、営業や売り込み)と混同されることがありますが、単なる販売活動にとどまらず、広範囲に及ぶ活動を指すと考えるべきものです。最後に、マーケティングの考え方は捉えにくい面がありますが、次回以降の記事で、理解を深めていただけるようにしていきたいと思います。

2025/7/30 No.3150