鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

成長できないことが非人間的なこと

[要旨]

株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、「人を人と思って組織運営をすると人のためにならない」と考えており、それはいったん部下を人として扱うのをやめた方が部下はむしろ成長するという逆説的な真実があるからだそうです。すなわち、仕事は仲良くやることが目的ではなく、きちんと稼いで食えるようになることが目的なので、部下を成長させないことの方が避けるべきことであり、つまり非人間的なこと考えているそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「リーダーの仮面-『いちプレーヤー』から『マネジャー』に頭を切り替える思考法」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、あるベンチャー企業が、他社から優秀な人を集めて新しい事業を始めたものの、失敗してしまったということがあったそうですが、その理由は、他社から集めた優秀な人たちには組織適応能力が欠けていたため、十分な能力を発揮できなかったからだということについて説明しました。

これに続いて、安藤さんは、安藤さんの考えるマネジメントについて述べておられます。「ここまで、識学の考え方を元に、リーダー1年目や中間管理職を想定したマネジメント方法について説明してきました。識学の考え方は、よく知りもしない人が表面だけ取り上げて、『非人間的だ』、『軍隊みたいで嫌だ』と言われることがあります。『人を人と思っていないんじゃないか』という批判もされます。しかし、まったく逆です。たしかに、人を人とは思っていません。

ただそれは、『人を人と思って組織運営をすると、人のためにならない』とわかっているからです。いったん人として扱うのをやめたほうが、人はむしろ成長するという逆説的な真実があるのです。本書で繰り返してきたように、仕事は『仲良くやること』が目的ではありません。『きちんと稼いで、食えるようになること』がゴールです。そのためには、成長することは避けられません。成長できずに、食いっぱぐれるのが、もっともダメなこと、つまり『非人間的なこ』です。

この瞬間、社長がいなくなったり、会社がなくなったりしたときに、どの組織にいた人間がいちばん生き残れるか?どういうリーダーの下にいた人間が次の環境に適応できるか?そこにコミットすることが、リーターが部下に対して本来やらなければいけないことです。子育てであれば、親がいなくなっても大丈夫なように育てるのが大事です。親はいつまでも生きているわけではありません。子どもがかわいいからこそ、厳しく育てなければいけないのです」(267ページ)

安藤さんの、「人を人と思って組織運営をすると、人のためにならない」というご指摘は、少し抽象的な表現で、私も、安藤さんの意図をきちんと理解できていない可能性があります。私の理解を述べると、組織論の大家であるバーナードは、組織に加わっている個人には、組織人格と個人人格があると述べています。組織人格とは、例えば、会社に勤務している人が、その会社の従業員として行動しているときは、その会社の従業員として行動しているということです。

ですから、前の日に家族と喧嘩して気分がよくないときであっても、会社に来て顧客と商談するときは、その気分を押し殺して笑顔で臨むでしょう。このように、会社の従業員ではない個人人格としては不機嫌なのに、会社の従業員としての組織人格では機嫌よさそうにふるまう二重人格の状態にあるということです。そして、安藤さんが、「人を人と思って組織運営をすると、人のためにならない」と述べておられるのは、会社では、部下に対しては、個人人格の人格ではなく、組織人格の人格として接しなければならないということを指しているのではないかと、私は解釈しています。

もし、例として前述した従業員から、「私は、前日、家族と喧嘩して気分がよくないので、きょうの商談でも機嫌よくすることができず、商談は決裂しました」という主張は、一般的には受け入れることはできないでしょう。(もちろん、こんな主張をする部下はほとんどいないでしょうが…)ですから、「人を人と思って組織運営をすると、人のためにならない」という言い回しは、「部下を個人人格として組織運営すると、部下のためにならない」ということなのだと思います。

会社では、原則として、上司と部下は組織人格として接するのであり、組織人格に徹して能力を高めて行くことが、結果として個人人格にもよい結果が得られるということなのだと思います。恐らく、この組織人格と個人人格の線引きが曖昧な会社では、安藤さんがご指摘しておられる「仕事は仲良くやること」という状態になり、成果も低いままとなっているのでしょう。念のために、付言すると、これは安藤さんがどう考えているのかは分かりませんが、職場を離れたところでは、上司と部下が個人的な付き合いをすることは問題ないと、私は考えています。例えば、職場でゴルフをすきな人同士が集まって、休日にゴルフを楽しむことは、職場での人間関係によい影響を与えるでしょう。

2025/7/15 No.3135