[要旨]
株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、会社がブラック会社と評価されることのないよう、職場環境の改善が進んだものの、それは、同時に、「自分に負荷がなく、このままだと将来、社会で通用しなくなりそうで怖い」といった「成長できないことへの不安」を感じる従業員も現れていることから、会社が求める人材はどのようなものかを明確にするなどの対応が重要であるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、経営者の方が部下に対して指導をしたとき、部下の方が「何かを改善しないといけない」、「自分が変わらないといけなくなる」という、正しい恐怖を感じてもらうことが必要なので、そのためには、評価基準を明確にする仕組み化が効果的であり、ルールにないことについて指導をしてはいけないということを説明しました。
これに続いて、安藤さんは、新しい形のブラック会社について述べておられます。「プラック企業という言葉が一般化しました。2010年頃から使われ出した言葉で、『過重労働』や『バワハラ』が横行する会社のことを指します。その言葉が登場したことで、働き方における間題点が浮き彫りになり、職場はみるみる改善されていきました。『定時で上がれるようになった』、『有休が取りやすくなった』、『上司からの叱責がなくなった』など、働きやすさを感じることが多くなったことでしょう。
しかし、今度は、若者を中心に新たな不安が生まれているそうです。『厳しいフィードバックがなくで、成長できない』、『もっとバリバリ働きたいのに、与えられる仕事量が少ない』、『自分に負荷がなく、このままだと将来、社会で通用しなくなりそうで怖い』、そういった『成長できないことへの不安』を感じはじめています。
プラック企業と呼ばれることを恐れるあまり、もっと働きたい若者たちから『成長する機会』を奪っている側面が表われているのです。その結果、『ゆるいプラック企業』という新たな言葉が生まれています。この不安はどうやって解消されるのでしょうか。その一方で、『ハードワークだけど成長できる環境』で働く価値が増しています。コンサル業が人気だったり、ベンチャー企業に転職する人が増えています。
なぜなら、膨大な仕事量をこなすことで、圧倒的に成長できるからです。ここであまり体育会系的なことは言いたくありません。ただ、40代や50代で要職に就いている人や、私の経営者の仲間たちは、口を揃えて、『若い頃にバリバリ働いた経験が、その後の財産になっている』と語ります。とはいえ、もちろん体を壊すまで働く必要はありません。選ぶのは本人の自由です。
ただ、もっと働きたいのに、その負荷を与えられる機会が奪われてしまっているのは、やはり問題があると思わざるを得ません。キツいブラック企業と、ゆるいプラック企業。どちらにも共通するのは、『明文化されていない』、『境界線が曖昧になっている』という点です。(中略)人の上に立つ人は、『線引き』が求められます。この責任が果たされていないから、どちらかのプラックに偏るのです。
『書いである通りに結果を出したのに、なぜか評価されない』、『書いてあるような結果を出していないのに、なぜか評価される』、前者が境界線のない『キツいブラック企業』、後者が境界線のない『ゆるいブラック企業』、どちらも構造は同じです。必要以上に許されなかったり、必要以上に許されたりする。また、属人化によって評価に個人差が生まれたりもする。だから、きちんと成長したい若い人が納得できず、辞めていくのです」(138ページ)
私も、安藤さんがご指摘しておられるように、ブラック会社という批判を避けたいという思いから、部下に対してあまり指導をしなくなってきていると同時に、若い人の中には、会社からきちんと指導を受けられなくなったという不満を持っている人もいるということをきいています。
本旨からそれますが、ブラック会社でなくなろうという会社の対応が、一部の従業員の方からは、逆に、それが不満の原因になるという、皮肉なことになっているようです。もちろん、これも安藤さんがご指摘しておられるように、「選ぶのは本人の自由」ですが、「成長できないことへの不安」を感じている従業員の不安を解消することは、やる気のある従業員を活用して業績を高めたいと考えている会社にとって、願ったり叶ったりの状態だと思います。
では、成長できないことへの不安を感じている従業員をどのように峻別するかといううと、それは評価基準を明文化して明確にすることです。これを、安藤さんは、「境界線を引く」と表現しておられます。具体的には、会社の経営方針や経営戦略、それに基づく人材戦略を明確にします。これによって、それらの戦略に沿わない人材は、会社に入社しないか、入社していたとしても会社から去るでしょう。
さらに、職務記述書などで、各従業員ごとにどういった使命や役割を望むのかを明確にすれば、「書いである通りに結果を出したのに、なぜか評価されない」という不満はなくなるでしょう。一方で、こういった明文化するという机上での作業は、労力がかかる上に、直接的に収益に結びつかないと考えられがちです。でも、そうではありません。前回も述べた通り、組織でのコミュニケーションは組織的な活動を十分に機能させるためには必須の要素です。
2025/1/2 No.2941