[要旨]
株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、現在は、「会社に使われるのではなく会社を使おう」と考える人が増えているということですが、「会社にうまく使われることを意識した方が成長は速い」と考えているそうです。なぜなら、フリーランスになれば、結局、社会から直接評価を受けることになるので、会社から評価されない人は、社会からも評価されないと考えられるからだということです。
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今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「リーダーの仮面-『いちプレーヤー』から『マネジャー』に頭を切り替える思考法」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、部下は必ずしも自分の考え方を正直に口にしているとは限らないので、表向きは「楽しく働ければそれで満足」と言いつつ、実際は「楽しいだけではいけない」ということを理解しているので、上司は部下が成長する意欲があることを前提に部下に接しなければならないということについて説明しました。
これに続いて、安藤さんは、個人は会社にうまく使われることを意識した方が成長は速いということについて述べておられます。「いまの世の中は、『フリーランスになろう』、『副業をやろう』、『会社をうまく利用して、個人のスキルアップをしよう』という流れがあります。『会社に使われるのではなく、会社を使おう』という考え方を勧めているインフルエンサーもいます。しかし、私は、『会社にうまく使われる』ことを意識したほうが成長は早いと考えています。どこまで行っても、『組織あっての個人』だという考え方です。
どんなに優秀な人でも会社員である限り、外からは『A社の○○さん』というように、所属する組織とセットで認識されます。個の力、個の存在たけで生き抜いていける人は、ごくわずかです。ほぼすベての人は『組織やコミュ二ティに貢献できているかどうか』によって対価を獲得する存在です。独立して社会から評価を得る仕組みも、組織の中で上司から評価を得る仕組みも本質的には一緒です。会社で評価されない人が、社会から評価されることなんて、滅多にありません。会社を飛び出して自力で社会から評価を得るほうが、難易度は上がります。
独立して1人でやっていく。会社のトップとしてやっていくいうことです。それは、市場からの評価をダイレクトに獲得する存在になるということです。より大きな『社会』というコミュ二ティに認められるのは、高度なことです。会社員であれ、個人商店であれ、『社会の一員として』成果を上げていかないといけません。だから、『個人』と『組織』は本来、分けられるものではありません。『租織の中の個人』、『組織あっての個人』があるだけです。独立して成功できる人は、組織でもやっていける人です。その順番を間違えないようにしましょう」(153ページ)
組織と個人の関係は、結構、奥が深いと私は考えています。人は社会的な生き物なので、組織がなければ生きていけないことはほとんどの人が分かっていると思うのですが、その一方で、ブラック企業のように、会社が従業員を酷使するということがあります。逆に、労働組合の力が強すぎて、会社の経営が行き詰まってしまうという例もあります。ですから、組織と個人はうまく釣り合いをとることが、おたがいのメリットにつながります。少し話が飛躍しますが、会社経営者は、会社と従業員の関係が最もうまくバランスするよう調整することが最大の役割だと、私は考えています。
話を戻すと、私個人の話で恐縮ですが、私が20代のころは、多くの中小企業経営者の方と直接話をすることができました。特に、まったく面識がなくても、「○○銀行の六角です」と、銀行の名刺を出せば、だいたい、話をきいてもらうことができました。でも、もし、私が銀行に所属していなければ、このようなことはできなかったでしょう。そして、現在の私は、銀行に勤務した経験がコンサルタントとしても大いに役立っています。「会社にうまく使われることを意識した方が成長が速い」という安藤さんのご指摘はその通りだと思います。
一方、私が銀行勤務時代の同僚の中には、融資を依頼してきた会社経営者の方に対して尊大な態度をとる人もいました。業績の悪い会社に対して融資を行うことは難しいことは事実ですが、融資する資金はその職員の資金ではなく銀行の資金です。それにもかかわらず、尊大な態度をとる銀行職員は、あたかも自分の資金を融資するように会社経営者の方と接していました。そのような職員は、会社経営者の方が「銀行職員」という肩書に頭を下げているのに、自分個人に頭を下げていると勘違いしてしまっているのでしょう。
そして、そのような銀行職員は、もし、銀行から離れれば、安藤さんのいうように、社会から直接評価されることになるので、協力しようとしてくれる人はあまりいなくなるのではないかと思います。繰り返しになりますが、個人が組織に所属することで制約を受けることも事実ですが、組織に所属することでできること、得られる経験もたくさんあります。そして、仮に、会社員からフリーランスになっても、結局、会社から評価を受ける代わりに、社会から評価を受けることになるのであり、「独立して成功できる人は、組織でもやっていける人です」というご指摘は、正にその通りだと思います。
2025/7/4 No.3124