[要旨]
事業活動は、新たな価値を生み出すことが目的であり、そのためには、事業活動の成果物を顧客から評価してもらう必要があります。でも、それらを実現できなければ、単に、事業活動を行うことが目的化していることになります。
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今回も、一橋大学の楠木建教授のご著書、「ストーリーとしての競争戦略」から、私が気になったところをご紹介したいと思います。今回は、利益についてです。楠木教授は、アスクルの元社長の岩田彰一郎さんから、岩田さんが社長だったときにきいたお話として、「利益こそが顧客満足の総量だ」という言葉を紹介しています。これについては、ほとんどの方が、「確かにその通りだ」と考えると思います。
ただ、それと同時に、「それは理想だけれど、現実は、なかなかその通りにはいかない」と考える方も少なくないと思います。とはいえ、事業は利益が得られなければ、短期的には融資などで継続できますが、長期的に安定して継続できなくなることも事実です。したがって、「事業は、継続的に利益が得られるものでなければならない」と考えれば、「利益=顧客満足の総量」ととらえることは妥当だと思います。
それでも、「そうはいっても…」と考えてしまう方もいるでしょう。そのような方は、事業活動そのものが目的化しているのではないかと思います。事業活動の本来の活動は、価値を生み出すことです。例えば、1個あたり500円の原材料に、1個あたり500円の工賃をかけて完成した製品を、1個1,000円で販売しているとすれば、価値を生み出したとは言えません。
でも、もし、その製品が1,000円でしか売れないとすれば、その理由は、(1)価格以上の高い品質があると評価されていない、(2)品質に問題はないが他社からもっと安く購入することができる、(3)品質も悪く、価格も高い、のいずれかだといえます。したがって、このような状況で利益を得るためには、(1)新たな技術を取得し、付加価値の高い製品を製造する、(2)生産体制を改善し、同じ品質を低価格で製造できるようにする、(3)これらを同時に実施する、のいずれかになるでしょう。
これらを実施しない、または、実施しようとしてもその能力がないとすれば、事業活動からは利益をえることができず、事業活動を続けることだけが目的化していることになってしまいます。今回も厳しい書き方ですが、事業活動とは、顧客から支持を受ける=付加価値を認めてもらえる=利益を得られるものととらえなければ、活動することの意味は見出すことはできません。
アスクルは、文具の販売というよりも、翌日に文具を顧客に届けるという新しい機能に対し、顧客からの支持をうけ、事業を拡大して行きました。単に、文具を売るとだけ考えていれば、顧客から多くの支持は得られなかったでしょう。顧客からの支持を得るということの大切さを、岩田さんは、自ら実践して証明したのだと思います。