鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

経営戦略は目的達成のための資源配分

[要旨]

ビジネスの世界において、戦略という言葉を最初に使ったのは、アルフレッド・チャンドラーであり、彼は、1962年に出版した「経営戦略と組織」の中で、戦略を、「企業の長期的目標と目的の決定、行動指針の採用、目的を達成するために必要な資源配分」と定義しました。そして、経営が高度に複雑化した現在は、経営戦略抜きには、経営の目的である価値創造は実現できなくなっています。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの遠藤功さんのご著書、「経営戦略の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回は、経営戦略は経営の意思であり、多様なステークホルダーとの約束で、具体的には、どのような会社を目指すのか、どのような存在になりたいのかを示し、株主や顧客というステークホルダーと約束するもので、これを明確にするこで、会社に魂が宿ることになるということについて説明しました。これに続いて、遠藤さんは、経営戦略は経営の目的である価値創造のために必須であると述べておられます。

「ビジネスの世界において、戦略という言葉を最初に使ったのは、アルフレッド・チャンドラーです。彼は、1962年に出版した、『経営戦略と組織』という名著の中で、戦略を、『企業の長期的目標と目的の決定、行動指針の採用、目的を達成するために必要な資源配分』と定義しました。近代経営における戦略は、まさにここが起点と言えます。(中略)チャンドラーが定義した『企業の目標』を議論する前に、そもそも、『企業は何のために存在するのか』、すなわち、『経営の目的』について考えてみましょう。その答えも、決して一様ではありません。

『利益を上げること』、『株主価値を極大化すること』が、経営の目的だと主張する人もいるでしょう。確かに、利益を上げ、企業のオーナーである株主に還元することは、資本主義社会の中の存在である企業にとって、大切な命題です。しかし、私は、企業経営の本質は、『価値創造』にあると考えています。顧客に認められる価値を生み出してこそ、顧客はそれを購入し、対価を支払おうとします。それによって、企業は収益を上げることができます。価値創造に成功しなければ、利益を上げることも、株主に還元することもできません。

例えば、製薬会社は、研究に研究を重ねて病や体の不調に悩む人たちが健康な生活を取り戻せるよう、さまざまな新薬を開発する努力を続けています。ファッションブランドは、品質とデザインを究め、快適な着心地やおしゃれ心を満たす服・装身具をつくろうとがんばっています。町のクリーニング店は、洗濯・シミ抜き・アイロンなどの技術力を養い、人々が清潔な暮らしを営めるよう、サービスを提供しています。利益にしても、株価や配当にしても、顧客が認める価値を生み出したことによる『副産物』にすぎません。企業活動の本質とは、価値創造活動のことなのです。

ピーター・ドラッカーは、その名著、『マネジメント』の中で、経営の目的を、『顧客の創造』であると定義しました。『市場をつくるのは、神や自然や経済的な力ではなく企業である』と看破し、顧客を創り出すことこそ、企業の使命であると位置づけたのです。『価値創造』と『顧客の創造』は表裏一体のものです。顧客を生み出すためには、顧客が認める価値を生み出さなくてはならないからです。企業活動は、すべて、価値を生み出すことに収斂(しゅうれん)しなくてはなりません。優れた経営とは、全社一丸となって、『価値創造』に邁進し、顧客が認める価値を生み出すことなのです」

私も、遠藤さんと同様に、経営の目的は価値創造でり、それを奏功させるために、経営戦略は欠かせないと考えています。しかし、チャンドラーが経営戦略という言葉を世に出す前も、事業活動は行われていたのに、なぜ、経営戦略が必要と考えられるようになったのでしょうか?それは、経営環境がかつてより複雑になってきたからであると、私は考えています。かつて、もの不足の時代は、製品などは、作ればすぐに売れました。すなわち、生産活動そのものが、直ちに利益を得る活動になっていました。

ところが、社会が豊かになり、もの不足が解消してくると、製品を製造するだけでは、必ずしも、それが売れるとは限らなくなりました。そこで、経営戦略によって競争力を高める必要が出てきました。こうした経緯から、事業活動の目的は、製品を製造することというよりも、価値を創造することと考えられるようになったと考えられます。そのため、現在は、経営戦略の重要性が高まり、経営戦略なしに価値創造は遂行できなくなっていると言えるでしょう。

2024/3/16 No.2649